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幼馴染と手をつなぐ  作者: 高橋もみぢ
第二章 お姫様と王子様?
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六話

「ターナー・ソラナって言います。ソラって呼んでね。みんなよろしく~」


 朝のホームルームにて、男子が色めきだった。見た目に反して流暢な日本語と、はにかむような笑顔が心を射止めたのだろう。同年代の外国人というだけで珍しいのに、とびきりの美少女となれば当然だ。拓海も興奮したように指笛を鳴らしている。


 先生が黒板に名前をカタカナで書くとまた声が上がった。

 辺りを見ると、いくつかの無遠慮な視線が俺を向いていた。朝の登校を見ていたのだろう。俺とソラの関係を疑っている。


 幸いまだ噂はそこまで広まっていないようだが……。


「王子様――サクヤの家にホームステイしてるからみんな遊びに来てねー」


 安心はすぐに崩れ去った。教室の空気が凍り付き、一斉に視線がこちらを向く。そのほとんどが「なぜまたあいつが?」と訴えかけていた。


 ……王子様って呼び方を訂正させるの忘れてた。


 後悔しても遅い。助けを求めて由紀を見ても顔を背けられ、委員長には侮蔑の視線を向けられている。あとの知り合いは拓海くらいだが……。


「朔夜、王子様に憧れる気持ちはわかるが、初対面の女の子にそう呼ばせるのはどうかと思うぞ。そういうプレイか?」


 即、裏切られた。


「ちが~うっ! そんな願望はこれっぽっちもない! ソラが勝手に言ってるだけで、健全で安心安全のホームステイだから!」

「オレの手鏡見るか? 自分の顔を確認した方が」

「いらないから! そこまでうぬぼれてもないから! 悲しくなるだけだから!」


 クラス中から今度は憐みの目を向けられた。

 もうこれ半分いじめだろ……。

 俺は泣きそうになりつつ立ち上がり、ソラと目を合わせる。


「ソラ、とりあえず王子様呼びは金輪際禁止だ」

「えーなんでさ。ぴったりだと思うけどなあ」


 不満そうに唇を尖らせる。


「似合わねーだろ。最悪に、絶望的に、みじめにも」


 鏡はいつだって現実を教えてくれる。

 俺は、かっこいいヒーローになんてなれないことを。


「日本のマンガはヒロインが王子様に助けてもらうところから始まるんだよ? ボクを助けてくれたサクヤはまさに王子様じゃないか」

「いやそれ少女漫画だけだし。知識が偏ってるし。マンガと現実は別物だし」

「王子様はかっこよくないとダメなんて決まりはないんだよ?」

「あ、俺のことをかっこいいと思ってるわけじゃないのね」


 少し悲しかった。

 ……期待はしてなかったけどね?


「とにかく、王子様呼びは禁止だ。俺はソラとの出会いを覚えてないからノーカン」

「ぶー、それじゃなんと呼べばいいのさ。王様? それこそ似合わないよ」

「ベクトルを間違えんなよ普通にサクヤでいいだろ」

「うーん、あだ名って特別感あるじゃん。キンギョノフン? みたいな」

「それはあだ名じゃないから! 朔夜でお願いしますほんとに」


 頭を下げて頼み込むと、ソラが困惑の声をあげた。


「わ、わかったよぉ。しょーがないからサクヤね」


 ほっと胸をなでおろす。周囲の視線はまだ冷たいが、これ以上の悪化は防げそうだ。


「なあ望月。そろそろホームルーム終わっていいか?」

「あ、はい、すみません」


 時計を見るととっくに一時間目が始まる時間だ。チャイムに気づかなかった。

 廊下では数学のおじいちゃん先生が待ちぼうけを食らっていた。






 ソラの噂はあっという間に広まった。

 美少女を一目見たい、出来れば話しかけたいと下心をもった生徒が男女問わず教室に押しかけてきた。マンモス校なので生徒数も多く、教室前のはパンク寸前にまでなった。


 ここで役に立ったのが拓海だ。一部の男子(少しチャラい人)から熱狂的な支持を得ているらしく、下心をもつ男子をうまく誘導していた。統制が取れていたおかげで俺たちは普通の一日を送ることができた。


 好奇心の塊であるクラスメイトも委員長が制御してくれた。ソラのおかしな性格もあってか、放課後にはほとんどの人が興味を失っていた。みな自分の部活に忙しいのだろう。


「サクヤ~帰ろ~」


 帰り支度を終えたソラがバッグを持ち、ベレー帽をかぶってやってきた。学校指定の紺のバッグには新品の教科書がみっちりと詰まっている。今日はずっと主役だったが、その顔に疲労の色は見えない。


「ダメ。朔夜は今から私とスーパーに行く」


 由紀が俺とソラの間に割り込んでくる。


「……んな約束したっけ?」

「二人は遊びに行くの? いいな~ボクも行く。本屋がいい」

「いや俺は帰るつもりなんだけど……」


 俺の意見は二人に聞こえていないのか、無視して必死な顔で言い合っている。


「スーパーは買い出し。遊びじゃない。あなたは一人で帰って」

「ぶ~ユキがつれない。みんなで一緒に本屋にいこうよ~。みんな少女漫画の常識すらしらないんだから、ボクが教えてあげるよ」


 その前に引っ越しの荷物を整理しなくちゃいけないんだけど……。


「大きなお世話。私たちは忙しい。付き合ってる暇はない」

「ちょっとくらいいいじゃないか~。ボクも街に行ってみたいよ」


 話は平行線だ。らちが明かないと判断したのか、由紀が俺の左手をとる。


「朔夜、行こ。時間なくなる」


 だがソラも対抗して俺の右腕をつかんだ。


「サクヤぁ~、本屋に行こうよ~」


 両側からがっちりとロックされて身動きをとれなくなる。二人は俺を挟んでバチバチと視線の火花を散らせていた。


 ここでどちらかに傾けば片方から糾弾されるのは分かり切っている。俺の要望を押し通すのは論外だ。残る選択肢は一つしかない。


「……どちらにもいくか」


 帰宅は諦めて二人のお姫様に付き従うことにした。

 男の立場はいつだって弱い。

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