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汝は悪神なりや? 3

「…っ!」鬼神は何も答えずにギリッと歯を食いしばった。


(あそこまで、町が、神が、私が…変わってしまったのは…あの女神のせいか?いや…時間のせいなのか?くそ…私の道は閉じたというのに)


 がっかりし、肩を落とし意気消沈したまま、雲になりかけ、本殿の中へスッと身を消してしまった。手を伸ばしかけた眷属はそれを見て、諦め俯いた。

「ひどいよ…」

「今はそっとしておけ」

 冷静が珍しく強めの語気でたしなめる。

「だって、あんな言い方あたしのアルジらしくない──」

「触らぬ神に祟りなし、さ。今はけしかけない方が身のためだぜ」

「う、うん。わかったよ」

 巫女式神は釈然としない様子で頷いた。涙をこらえ、童子式神が残していった血溜まりを眺める。

「…」



 ソッとそれに手を伸ばした。





 彼は疲れ果てた様子で、社殿に漂っていた黒い雲に吸い込まれる。自らの縄張りにやってくると、ハアと深い息を吐いた。

 揺蕩う闇の中で怨霊は目を伏せる。


(あれだけさ迷った太虚へ安堵を覚えるなんて、お笑い草だ)


「はあ」再びため息を吐くと、焦りを隠そうとする。人間の頃の余計なモノが溢れ出て止まらない。不安。焦燥。絶望。


(私に残された道は)


「くそ!」膝を叩き、苦汁をすする。


(やっと現世へやってこれたんだ。──神威ある偉大な星よ。私は貴方が再び輝きを放つのを待っている)


 怒りや恐怖を滲ませていた顏は真顔になり、思考を止める。


(馬鹿だなあ。…。何が気に食わないのだろう。子供じみた癇癪が私を苛ませている。何か、あの式神からは異なる気配を感じる。あのお方ではない、なんだろう。昔会ったことがあるような。あの甘々しい思考回路の──巫女の笑顔が蘇る)


 自嘲して項垂れる。「はは」

「あの女はあまり好きじゃなかった。」

 脳裏に巫女とかつて人間だった巫覡が対面している。巫女が民からもらった作物や木の実を抱え、その内のひとつの木の実を渡してくる。

 今の現在の鬼神──異国の巫覡がそれを受け取り、木の実を眺めた。そして握りつぶす。


(皆に愛想と慈愛を振りまいては自分へも特に優しくしている。何かが癪に触った。きっとそれは同族嫌悪だ。あの式神とあの女に接点などないはずだ。なのに、…)

 鬼は顔をわずかにあげる。


(私があのお方だと信じていた者は月世弥(つくよみ)だというのか?──稚拙な)


(いや、しかし…あのお方はどんな方だっただろう、どんな声をして、どんな…)


(覚えていない?この私が?…己の理想としていたあのお方しか…思い出せない、いや、忘れるはずがない!そうか…越久夜町に"悪神"の記録は残っていない。いや、"消された"のだ)


 幻視していた童子式神の姿が、神世の巫女へ変わっていった。

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