零落した使わしめ 5
突拍子もなく草やぶにしゃがみこみ、何かの毛皮が──彼女の手によって引きずり出される。それはまだら模様の大きな獣の毛皮に見えた。
途端にケガレがぶわりと濃くなって、二人は思わず息を飲む。
「コイツがケガレの原因スか?」
「みたいだねえ」
「やばくねぇスか?これ」
「うん」
ワオォォーン、と奇妙な遠吠えがした。この場に居ないはずの遠吠えは、ビリビリと大音量で響き渡る。二人は身をかがめ辺りを見回した。
「やべえ!」
「逃げるッス!」
童子式神は疾走しながらも手足をうさぎの形態にして、ぴょんと身軽に跳ね上がった。走るのは得意だ。まるでウサギのように速く走ることができる。
沸いて出たように、犬のような生き物が前の通路から走ってくるのをみて、二人は後ろにある森に逃げ込んだ。
「あいつだっ!あたしが見たヤツだ!」
振り返ると間近にいる。童子式神は違和感に気づき驚いた。
(──野犬?いや、オオカミ?まさかニホンオオカミ?!)
「──木に登るッス!早く」跳ね上がり、持ち前の鋭い爪を立てながら木に登ると下を見下ろした。巫女式神は体を鳥にして飛び上がる。幹に着地すると瞬時に人の形に戻った。
「あいつ、きっと木に登ってはこねえ。一匹ならの話だけども」
「なんで?」隣で身を潜めながらも、聞いてくる。
「山犬はそういう者なんス」
山犬は肩車が得意で木に登ってくる。そのような伝承が各地に残されているという。
「あいつ、山犬なの?山犬って絶滅したんじゃ?」わずかに動揺する巫女式神に
「生者の山犬は絶滅したでしょうが、人ならざる者の山犬は生きていても不思議じゃねえ」
山犬はグルグルと木の周りを旋回しながら唸り声をあげている。「──って!なんで持ってるんですか?」
「え?」
「毛皮っ!」腕の中には毛皮が収まっていた。
「持ってきちゃった。ハハ」引きつった笑みを浮かべる彼女に呆れて口がふさがらない。
「これをあれに返してあげてください。じゃないとずっと木の上にいることになりますよ」
「嫌だよ。ニホンオオカミの毛皮なんて貴重だろ?」
ギュッと抱き寄せる巫女式神に唖然を通り越して、怒りがわきあがってきた。
「このっ──」