表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/166

零落した使わしめ 5

 突拍子もなく草やぶにしゃがみこみ、何かの毛皮が──彼女の手によって引きずり出される。それはまだら模様の大きな獣の毛皮に見えた。

 途端にケガレがぶわりと濃くなって、二人は思わず息を飲む。


「コイツがケガレの原因スか?」

「みたいだねえ」

「やばくねぇスか?これ」

「うん」


 ワオォォーン、と奇妙な遠吠えがした。この場に居ないはずの遠吠えは、ビリビリと大音量で響き渡る。二人は身をかがめ辺りを見回した。

「やべえ!」

「逃げるッス!」


 童子式神は疾走しながらも手足をうさぎの形態にして、ぴょんと身軽に跳ね上がった。走るのは得意だ。()()()ウサギのように速く走ることができる。

 沸いて出たように、犬のような生き物が前の通路から走ってくるのをみて、二人は後ろにある森に逃げ込んだ。

「あいつだっ!あたしが見たヤツだ!」

 振り返ると間近にいる。童子式神は違和感に気づき驚いた。


(──野犬?いや、オオカミ?まさかニホンオオカミ?!)


「──木に登るッス!早く」跳ね上がり、持ち前の鋭い爪を立てながら木に登ると下を見下ろした。巫女式神は体を鳥にして飛び上がる。幹に着地すると瞬時に人の形に戻った。

「あいつ、きっと木に登ってはこねえ。一匹ならの話だけども」

「なんで?」隣で身を潜めながらも、聞いてくる。

「山犬はそういう者なんス」

 山犬は肩車が得意で木に登ってくる。そのような伝承が各地に残されているという。

「あいつ、山犬なの?山犬って絶滅したんじゃ?」わずかに動揺する巫女式神に

「生者の山犬は絶滅したでしょうが、人ならざる者の山犬は生きていても不思議じゃねえ」

 山犬はグルグルと木の周りを旋回しながら唸り声をあげている。「──って!なんで持ってるんですか?」

「え?」


「毛皮っ!」腕の中には毛皮が収まっていた。


「持ってきちゃった。ハハ」引きつった笑みを浮かべる彼女に呆れて口がふさがらない。

「これをあれに返してあげてください。じゃないとずっと木の上にいることになりますよ」

「嫌だよ。ニホンオオカミの毛皮なんて貴重だろ?」

 ギュッと抱き寄せる巫女式神に唖然を通り越して、怒りがわきあがってきた。

「このっ──」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ