明るい星のかみさま 3
心の中で落胆しつつ、ふとこの娘の正体が気になった。
(しかし、この子。一体どっちが本当なのかしら?気配的には人らしくはないのだけれど。本当に人由来の人ならざる者なの?禍々しい、なんだろう…魔物よりは強い、者よね。バケモノよ。墳墓にいたのだから、やっぱりムラを支えた女性なの?その女性って人?まさか生前からバケモノ?)
「しきがみさん。わたしから離れないでね」
「えっ、ええ」
いきなり裾を捕まれ、飛び上がりそうになる。
「独りは怖いの…もう、皆から除け者にされたくないの…」
「わ、分かったわ…」
(だって食われたくないもの!)
月夜見という人ならざる者は墳墓の上でぼんやりしていた。やはりここが一番落ち着くのである。ずっと半月であった月が満ち始め、山伏姿の式神は喜んでいたけれど彼女の表情は沈んでいた。
──わたしは、今まで眠っていたのかな?
神々の声を聞いていた巫女と思い込んでいる、ただの魔なのかな?
ならなんで石のお墓まで作ってもらってるんだろう?わたしは、ムラに排除されたはず……。
オカシイ。自分って──
──偽物。
月夜見は頭の中に響く、違う者の声へ不快感を露わにする。
わたしは…なんて名前だったの?あのお方との大切な会話は?なんで覚えていないんだろう?
──なぜ大切な名前を忘れてしまったかって?おめえが偽物だからだ。この目が知ってるおめえはもう少し賢そうな、成熟した女だったような気がするがね?
偽物?わたしが?ならどうして、わたしがわたしであると確信できるの?記憶があるの?おかしいよ。
彼はふうむ、とニヤつく。
──記憶などいくらでも偽装できるぜ?例えば-この俺がまつろわぬ神であるという記憶も、全てな。確かな実証はねえのさ。誰も。
なら…わたしは、やっぱり死んでしまった?
──そうさぁ。オリジナルはもう死に絶えてる、俺もおめえも。跡形もなく朽ち果て──既にこの世に存在しない。
娘は目を見開く。膨らみ始めた月に照らされ、影が伸びる。
…でもこの気持ちは本物。あの方に会いたいっ!
──会えばいい。拒絶され、罵られる覚悟があるのならな。
「いやっ!」耳を塞ぎ、そっと肩に手が置かれる。
「早く諦めまえちまえや。俺が食ってやるよ」
耳打ちされ、手を振り払おうとすると、悪い何かがいないのに気づく。
「はあはあ…いや、いやだ!」息を切らしながら墳墓の石を持ち上げ、投げつける。
「わたしは死んでいない!こんなものっ!こんなもの!」
山伏式神はそれを遠くから眺め、あとづさる。恐怖に脂汗が垂れ、呟いた。
「壊れてる」