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越久夜町の偽神話

 昼下がりの日差しは眩く、草木を際立たせている。夏の厳しさはなくなったがまだ汗ばむ。

 巫女式神は目を瞬かせながらも太陽を仰いだ。廃屋の外に出るも、あの有屋という女性の姿はなく、自然に帰りつつある駐車場が広がっていた。

 二匹は寂れた廃材に腰掛け、風に当たる。


「護法童子って意外と普通なんだな。もっと恐ろしい姿をしてると思ってた。青い肌とか、角が生えているとかさ」

 巫女式神が足をぶらぶらさせながら、何気なく言う。


「悪疫を退散するために、護法童子は色々な形をとるからね。まあ、有屋さまがこの姿に定めたんだ。君だって鬼神が決めたんだろ?」

「まあね〜」

 ネーハはどこか遠い目をして頷いた。

「…越久夜町の、山の女神は知っているかい?」

「ああ、一応。町の最高神だろ?知らないとやべーよ。非"町"民だ。」

「それだけじゃあないんだ。女神はとても頼りになる、強い神さまなんだよ」

 言い聞かせるように彼は説明する。



 太古の越久夜町にはどんな者より一際輝く偉大な女神がいた。その者は太陽のようだ。その神から森羅万象を生み出て、町の神々や人ならざる者、虫や四足二足の獣を支配し、眷属とした。

 女神はやがて越久夜間山を神奈備とした。最高神として神々や獣たちからも信頼されていた。


「越久夜間山にいるんだっけ?でっかい神社だよな~」


 ああ、そうだ。夏祭りやお正月には町の人々は必ず訪れる場所らしいね。

 信頼されている最高神にただ一柱、従わない神がいた。外界──遙か向こう、違う宇宙から遣わされた者だった。

 夕闇にことさら輝く明星の神とも天の動かぬ七つ星の神とも言われた。

 いわゆる、山の女神側から見たら悪神だったのだ。神々は悪神といえども除け者にはしなかった、できなかったんだ。あまりにも強い力を持つその神に、対処ができない。宙からやってきた眩いばかりの神は、やがてその神威で人々を惑わしだした。


「ああ、あたしのアルジが崇拝していたって神さまか!」

 巫女式神は誇らしげに胸を張り、それに対し、護法童子は複雑な気分になった。

「君にとっては気分を害する話かもしれないね」


 ──町の神々は恐怖した。かの神はあまりにも眩しすぎた。太陽に近しいくらいに。

 山の女神と悪神。必然的に双方はぶつかり合い、生命は戦き、草木は枯れ大地は穢れ、従わぬ神は破れた。神々と獣たちは偉大な女神にひれ伏した。

 女神は穢れた大地を清め、再び町を再生させた。

 これは越久夜町の神話、いや、神話に似た大昔の話だ。知っていたかい?


「あたしのアルジはその神の言葉を伝える大事な役割をしていたから、途中までは知っているよ。──それでその話と捜し物はどんな関係が?」

「敗れた悪神の象徴を探すんだ。」

「何のために?」

 ネーハはしばし答えず神妙な顔をしていたが、やがて口を開き、枯れ草を手にした。


「君が住んでいる町のためだ」

「越久夜町のため?」

「このままでは再び町の均衡が崩れてしまう。この景色も君もルールが崩壊し生まれるカオスによって、存在できなくなる」

「ほうっておいても壊れるのに?」

「…どっちの味方なんだ?」

 警戒と不快感を顕に、巫女式神を問いただした。

「あたしはどちらにもつかないよ。あたしはまだ何者でもないからね」

「は?…はあ。いずれこちら側につくことになる。道を外れないように気をつけるんだな」

「もしかしてお兄さん、山の神の味方?」

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