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金烏の未知数 3

 不死鳥とは、何度も死んでは生き返る不死の鳥──鬼神はあの世からの土産話をしてくれた。あの世があるかは分からないが、不死鳥の話は好きだった。

 渋々ではあるが、巫女式神は越久夜町の上空をカラスの姿で徘徊する。

 別に不死鳥に出会わなくたっていい。「暇だけど、ヒマじゃないんだ」

 異形のカラスは四ツ目をパチクリさせ、上空に太陽が二つあるのかと、眼球を動かした。


「うわっ?デカっ!」

 黄金色に輝く、翼が六つある巨大な鳥がいた。かの鳥の頭部には立派な鶏冠と、眩い光輪があった。あれは──キジに似ているが、不死鳥?

 不死鳥というよりは、奇妙な天使だと思った。驚くも、冷静の言葉を思い出し、余裕を装った。


「君、私と話さないか?私は護法童子という者だ」

「あ、あんたが護法童子?そういう種族がいるのは話では聞いたけど、実際にいるとはね」

「君も希少な存在だろう?神使でもなく式神でもない者」

「見方によるよ」彼いわく、自身は敵ではないという。怪しく思いながらも話にのってやる事にした。

 ──暇だから。


「私とある象徴を探さないか?」

「象徴?依代のこと?」

「ああ、越久夜町のためなんだ。急いでいてね、それで君にあって欲しいヒトがいる」

「ほお。あたしに会いたい人なんているんだねえ」

 面白がる巫女式神に構わず、不死鳥は横並びに詰め寄る。

「私についてきてくれ」

 ジッと上昇気流に身を任せていたが、きっと逃げても追いかけてくるのだろう。ならば一か八か。賭けてみるのも悪くない。

「ん〜いいぜ」

「そうか!なら、こっちだ」

 純粋に気色を明るくした護法童子に、意外だと感じる。冷徹で魔に容赦がない種族だとばかり思っていた。

 彼は護法童子らしくないのかもしれない。自分と似ていて。


 巫女式神は連れられて、町外れの、国道沿いにある廃屋めいた建築物に向かわされた。人が暮らしているようには見えず、電気メーターだけが動いている。

 真の廃墟ではなさそうだ。


「初めて見る場所だ」

「私の使役者が隠しているから、普段は見つけられないよ」

 巫女式神は人の形に変幻すると、周りを見回しながらドアを開けてもらい、入る。護法童子も奇妙な事にメイド服を着飾った子供になって、廊下を歩いて行った。


「あんたの主は呪術師なの?」

「そんなものさ。そろそろ使役者が来るから待っていてくれないかい?」

 内装はしっかりしており、廃屋ではない。案内されるまま一室に通され、高級そうなソファに座らせられる。ふかふかしている。

 元は事務所だったのか、簡素な部屋にデスクやらがあるだけだった。観葉植物だけに色があるような。

 巫女式神が興味津々に部屋を見回していると、部屋に誰かが入ってくる。


「来ましたか」

 待ちぼうけをしていた少年が立ち上がり、歩み寄る。

「あなたが怨霊の眷属」


 威圧感がある妙齢の女性である。レディーススーツをキッチリと着こなし、清涼感のある香水を身につけていた。

 使役者なる女性が立ちはだかり、あまりの冷徹な双眸に固まる。巫女式神はこの者が人間でないと確信し、ざわりと毛を逆立てた。

「敵ではないわ。私は有屋、ネーハの使役者よ」

「…護法童子の」

「ええ。あなたに用があるの。それと、お願いがある」

 ネーハと呼ばれた護法童子は錫杖を手に着きそった。彼らに見つめられ汗がたれるが、虚勢をはる。怯えたら示しがつかない。

「私たちは悪神が何かを企てる前に阻止したいのよ。それには先ほどネーハが言っていたように、象徴が必要。あなたにも手伝って欲しい」

「悪神って、童子式神?」

「ええ、あれは残骸でしょうけれど。危険因子には変わりないわ」

「童子さんは危険じゃないやい」

「あの式神の存在自体は危険じゃないわね。ただ主をたぶらかして越久夜町を破壊させているから」

「ああ…否定はできないけれどね」

 苦笑をしながら座り直し、足をブラブラさせた。


「越久夜町は何千年も山の女神によって平和を保ってきたの。その平和を崩してはいけない、加えて女神が最高神でなくてはならない。私はそれを第一に考えている。すでにバランスが崩れ始めているのはもちろん、ゆらぎがひどいのは知っているでしょ」

「ああ、モクモクしてるな」

「ゆらぎがひどくなりバランスが不安定になると決まって有象無象が出現する。おのおのの想像の暗黒面が奇妙な生物を創造するの。負の感情が、穢れを押し付けられたヤツらが、肥大化していく──これは越久夜町にとって良くない兆候。悪神の残骸が町のバランスを崩すのならば容赦はしないわ」

「童子さんに手を出すな、とは言わせないってことか」

「ええ」有屋は平然と言ってのける。


「アリヤさんとはあんまり話が合わなそうだ」

 巫女式神は歪んだ、警戒した笑顔を浮かべる。

「…。あなたに合わせたい方がいるの」

「…勧誘じゃないよな?」

「まさか。合わせたいというのは──かの最高神、山の女神よ」

「へえ、そりゃあ大層なこった。あたしを最高神に合わせて何をしたいのかねえ?」

「山の女神はあなたと話したがってる。最高神に適合する、可能性があるあなたに」

「なるほど。困ったもんだ」


 巫女式神はうーむ、と考え込む。「考えさせてくれよ。色々と舞い込んできて、考えがまとまらない」

 待ったをかけ、さらに困り果てる仕草をする。

「いいわよ。けれど時間はあまりないわ。早めに決めてちょうだい」

「うん」

「じゃあ、ネーハ。あとは頼む。…私は女神に会いに行ってくるから」

 いそいそと退出する様子に、従属した人ならざる者はやんわりと敬礼する。

「そういうことだ」

 急ぎ足で去っていくのを確認すると、ネーハは少し気を緩めた。


「あのクソ犬…」


 何が不死鳥だ。


 脳内で冷静のちゃっかりした姿が浮かび、巫女式神はソファに寝転んだ。

 このソファは境内に持ち込んで寝泊まりしても良いくらいに心地が良い。

「とんでもないビッグなスカウトだと思うけれどね?巫女式神、君はどうする?」

「…無視はできなさそうだな」

「大丈夫。我々がついている」

 ネーハの笑みに薄ら寒さを感じ、微妙な顔をした。

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