金烏の未知数 2
ふくれっ面をする自らの写し身に怨霊は綻んだ。
「いいや、ない。式神には自我がない。主から感情の雛形をもらい、思考していると思っている。お前はどうだ?」
「ええ〜っ分かるはずないよっ!」
「ふふ。そうか、私も分からない。もしかしたら、お前の中に私の欠片があるのかもしれないな」
「…そっか、童子さんにも主が会いたがっている人の欠片があるといいな!」
「…」意表を付かれ、アルジは無表情になる。
「なあ、なんで巫女さんの姿にしたんだ?」
「私という神に仕える者だからだ。ほら、見ただろう。たまに神職の者がその格好をして境内を歩いているのを」
「それじゃあ、あたしゃ使わしめじゃないか。式神だろ?」
「そうさ。お前は生まれてはならない式神だ。可能性がありすぎる。そんじょそこらの魔にも神威ある偉大な神になれさえする」
「じゃあ今はそんじょそこらの式神、か!」
しゃがみ込むと、式神と目を合わせた。
「ああ、そこら辺にいる式神と何ら変わりはないと思うよ。そうじゃないとお前は童子式神と出会えなかった」
「な、なら良かった!あたし、アイツに会えて嬉しかったんだ」
「ほう。嬉しい、か」
鬼神は指を顎に添えると、ふむと一人で納得する。
「童子式神の可能性か…。彼の可能性は意外にも、予測可能だったかもしれない。私は買いかぶりすぎたのかな」
巫女式神はその言葉に即座に反応した。焦燥と不安を宿した視線をよこしてくる。
「童子式神はフツーだったのかい?」
「まあ…普通とは、歪なものだよ。もしかしたら童子式神は"普通"の式神かもしれない。それは彼を深く観察しないと、まだ断定できないがね。
「アルジも見誤るんだな」
「そりゃあそうだろ!ヒトだからねえ!」ケラケラと笑うと、腰を上げ、社殿に向かい始めた。そろそろ休まないと体が持たない。
「童子式神があのお方になるのを私が望んでいるんだ」
「うん!じゃなくちゃ困る!競争するって約束したから!」
──時空が壊れる?なぜだ?
形が崩れて、うまく固定できずに天の犬に問うた。天の犬は巨大なボルゾイ犬から、同じく二足歩行の獣人に変幻した。
空中に漂いながらも足を組む。
──誰かさんの重度なる改変による無茶が祟ってね。何度も言うが、俯瞰視すれば一目瞭然だ。
──どうすれば良い?なぜ…私にそれを?
アルバエナワラ エベルムは虹色の瞳を細めた。
──知りたいか?
ある時、巫女式神は暇を持て余していた。暇でないかもしれないが、今は暇だ。仕方ないので製造元の鬼神に構ってもらおうとしたのだが。
「なあ」
「アイツは生憎お取り込み中だ。暇なら町を散策でもしてきたらどうだ?」
背後からヌッと現れた冷静に声をかけられ、わずかにビクリとする。
「いきなり声かけるのはやめてくれよ。田舎町なんてよ、なーんも目新しいモンないじゃないか〜」
乗り気じゃない彼女に片割れは意味ありげな笑みを浮かべた。
「きっと忘れられない出会いがあるぞ?」
「それは助言?」
「多分なぁ」スカした態度の彼にうんざりする。いつもそうだ。
「嫌な予感しかしないぜ」
「これも社会勉強さ。さ、行ってきな」
「ヤダヤダヤダ!相手しろよ!」
駄々を捏ね始めた人ならざる者に冷静は唖然とした。が、気を取り直し、人差し指をピンと立てる。
「多分、不死鳥に出会えるな」
「不死鳥!あの、不死鳥か?!」
「ああ、見たいなら行ってみな?」




