神世の巫女の復活 4
月夜見と名づけられた少女は式神もどきに案内され、延々と自慢話を聞いていた。
荒れ野は相変わらず閑散としている。人ならざる者の気配もしない。
「え~?本当に神さまなの?あなたみたいな神、見たことも聞いたこともないよ」
「し、失礼ね!人間ごときに神の何がわかるの?」
バカ丸出しで怒鳴る山伏式神に、彼女はにこにこしてしている。
「だって神さまの声が聞こえたんだもん。ムラの神々のお声はだいたい把握していたし…」
「あなたが生きていた時代より後から産まれたんだからっ!いなくて当然よっ!」
ポヤポヤとしていた彼女だが、板碑を見やると真顔になった。「…ん」
「この石、わたしのお墓からとられたんじゃないかな?」
「えっ?なんでそんなの分かるわけ?」
「ふふ。勘!」キッパリと言い放つ。式神どもきはずっこけそうになる。
「あながち間違ってないかもよ。まとっている気配が似ているから」
「気配?石なんてどれも一緒じゃない?それにこれ、隕石らしいし…」
「わたしが輪廻を巡る前に残していった気持ち…憎悪、怒りが石に染み込んでいるから」
「そ、そお…」
おぞましい気色で月夜見は言い、こちらはびくつきながらも笑顔は絶やさない。もし機嫌を損ねたら食われるかもしれないからだ。
「あなた石から産まれたのでしょう?なら、わたしたち似たもの同士ね!」
「そ、そう…?」
恐怖にへつらっていた時から一転して、照れくさそうにむつれる。山伏式神は過去に思いを馳せた。
(ずっと独りぼっちだったから。友だちとか、似たもの同士とか…面映ゆいわね)
「あ、あの、あなたが寂しいなら、たまに話し相手になってやっても良いわよ!」
「うん!じゃあお話をしましょう」
こうして二匹は石の近くで語り合う事にした。
「しきがみさん、って人じゃないのにヒトの形をしているの?」
「式神になったからよ」
「しきがみになるとヒトになるんだね」
興味深そうにうなずく月夜見に式神もどきもはたと考える。
「絶対ヒトになるってことはないわよ。動物になるかもしれないし、または虫かもしれないし。ま、どれでも同じだと思うけどね」
「ふ〜ん」
「別に、式神になった理由も今はどうでもいいわ。再び神威を取り戻した所で、人間どもは衰退しているもの。私が滅ばなければいいのだもの」
「変なの!」
「あなただって、私と同じよ!──そうねっ!ご飯食べに行きましょ!」
「ごはん?」
立ち上がった山伏式神に、少女は不思議がった。
開けた森の影が風により、ザワザワとさざめく。月明かりに照らされて、地面に生臭い血が散乱している。
バラバラになった人の破片が血溜まりに散らばっていた。血の海を眺めていた山伏姿の式神は腕に着いた血を舐めた。
「魔はね、ご飯を食べなきゃいけないのよ?神さまみたいに無欲な者ではないの」
「あんまり美味しくなかったな〜」
血にまみれた地面を蹴る月世弥はあまり乗り気ではなかった。
「あれはまだ美味くならない、熟れてないヤツだったから。それに肉付きも悪かったし」
ぐちゃぐちゃと死体を弄り、二匹はさらに肉を貪る。
「こんな田舎町に熟れた生き物は中々来ないのよ」
「あ、でもさ〜魂は美味しかったよう」
「当然よっ!一番旨味がある場所なんだから。あたしは"大人"だから我慢したけど、普通は奪い合いになるくらい貴重なモノ。譲るなんて有り得ないわ」
「がんばるね!」ニコニコする少女に彼女はため息をついた。
「別にがんばらなくていいわよ、テリトリー争いとかめんどくさいし」
「あはっ!しきがみさんおもしろーい」
「はあ…」呆れながらため息をつくと、「この服もらっちゃいなさいよ。その…ずた袋みたいな服よりはいいと思うわ」
赤黒さに染まったベストを指さし、月夜見が纏うボロきれを見やった。
「これはね、ボロボロになっちゃったけどいい服なんだよ?」
破顔する子供の口は血にまみれていた。
「色々教えてね。お姉さん」




