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越久夜間山〈稲荷の狛狐 山の女神の伝承〉6

 稲荷神社は隙間なく結界──いや、術による()が貼られ、入れなくなっていた。あの様子では神域を保てる霊力はないはずである。となると呪術師が行う反呪法だと、童子式神は見解した。

「こりゃあ神域のモンじゃねえ。反呪法か…」


(何故、神使らがこのような"反則"技を?くそっ、先手を打たれたか)


「来たな?小賢しい式め」

「何だい?独りでやってきたのかい?」

 老人たちの小馬鹿にした声が夜の山に響く。悟られたと思いながら警戒するも、くすんだ白銀の神使が二匹、現れ、狐火が周囲に現れる。


(神使が神域の外に?なぜだ?まさか?怪異となっているのか?)


「主も連れてきなあ。説教してやるよ」おばあさんの声を発していた狛狐が言う。

「あたしたちゃ地主神の狛犬のようにはいかぬぞ」

 狐火を纏わせ、二匹は鋭く童子式神を睨めつける。

「狛犬…?何言ってるんすか!あれはっ」


(あっしらのせいになってる!?)


「待てっス!あっしらではなく鬼神が起きて神使を──」

 神使たちは地主神が祀られていた神社に居た狛犬を、この式神どもがを退治したと思い込んでいたのだ。

「言い逃れか?鬼神などこの町にはおらぬぞ!!貴様──越久夜間山に来たということは、さては山の神の御神体を狙いに来たか?」

「残念だね。越久夜間山には御神体はないよ。あるのは我らの神、稲荷神のみ!奪うなら奪ってみりゃいいさ!」

「我らが女神を守る!」


(コイツらは鬼神を知らない?あ、あの鬼ぃ!)


 童子式神は鬼が町の神使にすら知られていないのを目の当たりにする。鬼神にはどうやら"近所づきあい"をする気は無いらしい。


 殺傷力を持った──穢れを含む赤黒い火炎がこちらに向かってくる。咄嗟にジャンプして避けると、異形の火の玉は草木に燃え移った。

 どういうわけか、あっという間に草薮は火の海に成り果てる。

「式ごときがわしらに勝てると思うな。わしらは神使だ」

「バケモノになりつつあるくせに!何を言うか!」

「き、き、貴様は!礼儀がなっとらん!!」

 ボウッと一匹の狐が火を吐くと、火球が連なり襲ってくる。獣の身軽さで必死によけるも、炎に束縛されてしまった。


「ぐああ!」草薮の焔が燃え移り、皮膚や体毛を焼かれ、悲鳴をあげる。

「さあ。主の名をいいな。今ならそれだけで勘弁してやるから」

「絶対に言うものか!」狐に断言するや唾を吐いた。

「そうかい」


「うりゃ!」

 必殺技の髪飾りを召喚し、巨大化させブーメランのように舞わせる。

「おのれ!させるか!」

 ひし形の武器は狐の体を削り、血を舞わせる。その隙に炎の拘束を解き、走り出した。

 身体中に痛みを発している。早く縄張りに戻らなければ。

「ギャッ!」自分からこけてしまい、地面に伏して苦しむ。逃げ場をなくした式神へ二匹が迫ってくる。

「最高神のお膝元でこのような狼藉。女神はお怒りになり、お前たちはただでおかないだろうね」


(くそっ!神使に勝てるはずないんだ!)


 ボウッと火力の強い狐火が舞い始め、童子式神は目をつぶった。





「これ以上神域を冒涜するなよ。」

「式神はいくら潰しても湧いて出てくるからねえ。消すよりは良いと思わないかい?」

「そうだな。主となっている人間がこれ期に反省すると良いが…」

「アハハ!生易しいねえアンタ!」

 声だけが聞こえ、ドサリと地面に放り込まれた。


「二度と越久夜間山に来るんじゃないよ」

 念を押され、ボロボロのままそこら辺に遺棄される。

 息も絶え絶えに星空が見える。

「お前を潰すのは、次は最高神だ」

「覚悟しておきな」


 疲れきり、遠のく意識の中、誰かが近づいてくる。誰だかは分からないが、女だというのはわかる。ふいに名を呼ばれた気がして薄らと目を開けると、髪飾りに手を触れられる。


(やばい!依り代を…!)


 美しい指でなぞられ、次の瞬間──髪飾りが弾け飛びブラックアウトする。

 暗闇の中で自分の体が崩れ落ちていくのをみて焦る。


(自分は誰だ?もう誰でもない。神威ある偉大なる星でも巫女でもない──)


 童子式神は、こうなるのは二回目だと悟る。

 式神にならなければ行けなかったあの時と一緒だ、と。


(──そうだった。あの時も)


 崩れたからだで走りながら、自分は誰だと自問自答する。


(ああ!誰か!あっしの名を呼んでくれ!)


 居ないはずの巫女式神が暗闇の奥から現れ、都合よくこちらに手を伸ばしてきた。冷たい、血の気のない魔物の手。それでもいい。二人の手が触れ合うか、合わないかの折に──


「童子式神」

 彼女の声で目が覚め、童子式神は再発生したと悟る。

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