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越久夜間山〈稲荷の狛狐 山の女神の伝承〉3

 道行く童子式神はどことなく町が騒がしいのを疎ましく思う。人ならざる者たちがどこか浮かれ、忙しく動き回っている。

 異界でも囃子の音がしているのに、ハッとした。

 収穫祭だ。


(()のお祭りなんだ?)


 神々の、個人的な祭りだろうか?それとも神に近い邪悪なる者だろうか?

 越久夜町は山間部のため稲田は少ない。秋祭りなれば、稲作の終りに神の恩恵に感謝する儀式に他ならない。物産はあれどここまで盛大に祝う祭りはない。──となると、異界側での祭りに違いない。

 童子式神は長らく縄張りに引きこもっていたせいで、そのような事には疎かった。

『★女神様のおわす越久夜町(おくまち)★ 越久夜間山には女神様がおります。女神様は春になると山より降りてきて豊穣をもたらします。越久夜町の人々は神様がもたらす自然の恵みに感謝して、秋になるとお祭りをしてきました。越久夜祭り』

 そう、人には読めない妖気の漂う文字が羅列されている。

 ブロック塀に貼られた祭りのお知らせを見ながら、童子式神は路地に提灯が設置されているのを知る。


(毎年こんな祭り、やっていたっけな。あっしが忘れているだけか?何もかも忘れてしいたいほどの事があったんだろうか?)


 奇妙なお囃子の音を聞きながら、独り言をこぼしてしまった。

「女神さまのお祭りかあ。越久夜間山にもあまり行ったことねえっス」

「越久夜間山にはこの町をテリトリーにする最高神がおわすのじゃ」

「ぎゃ!居たんすか?!」

 先程まで居なかったはずの寡黙が、いつの間にか隣にいるのに驚き、飛び跳ねてしまった。

「…」

「さ、最高神だったんスね。その女神さまは」

 息を整えながらも言う。

「女神は何万年も昔、神世の地代、先代から最高神の座を譲られると、越久夜間山を神奈備(かんなび)としたのじゃ。そして町の虫や四足二足の獣を支配し、眷属とした。町の裸虫どもも眷属であり、彼らが女神を崇めるのは当然の事」

「はあ…なるほど」

「彼女は最高神として神々や獣たちからも信頼されていた。」

「いた、ってことは──」

 シッと指を唇にあて、彼はジェスチャーをする。


「不敬な言動は控えろ。山の女神は祭りの日が近しいと、ことさら人々を監視している」

「おめえが言ったんじゃねえすか」

「口が滑っただけじゃ」

「山の女神という神が神世の時代から祀られているのは、すごいことだと思います。これまで、誰も山の女神に反逆してこなかったってことじゃねェスか。信頼されていたんですね」

「信頼というよりは、放任…じゃった」

「えっ」

「なんでもない。さあ、ゆらぎを掃き清め、町を偵察せよ」


(口が軽いのはどっちやら…)





 盛大な祭りが何日も開催されているのか。魔物たちが設置した提灯に明かりがともり、相変わらずどこか空気が騒がしい。反対に自然界は秋虫が鳴き、もの哀しげな雰囲気を醸し出していた。

 童子式神は越久夜間山のシルエットを眺める。そこまで高くなく、ほかの山の方が急斜面でそびえ立っていた。

 あの山は高位の神霊が住まう霊山──。


「おう」

 後ろから声を掛けられ、振り向いてみると冷静が立っていた。

「冷静、ですか?」

「そうだ。祭りがあるってんで、屋台が出てないか見に来たんだ」

「はあ」

「焼きとうもろこしとか美味いよな」フランクに話しかけてくる彼にジト目になる。

「式神は焼きとうもろこしなんて食べません」

「そう言いなさんな。あんたは屋台の下見じゃあないだろ?」

「まあ…主祭神のことを考えていました。」

「山の女神さまを?恋慕か?」

「まさか!あっしは山の女神なんて…う〜ん。会った事があるんでしょうか?」

 定かでない記憶に眉を潜め、考え出したが答えは出なかった。


「さあねぇ」

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