零落した使わしめ 3
寡黙の真紅にも見えるどろんとした深い目を見つめていると、あるはずのない三半規管が不確かになり、視界がぐにゃりと歪んだ。
「え?!ええ?」
あまりの不快感に、咄嗟にまぶたを閉じた瞬間──僅かに意識が暗転する。
「──でさあ、またあの塚に行こうと思うんだけどぉ。って聞いてるか?」
気がつくと目の前にふざけた態度の巫女式神がおり、いつものように庭で話していた。
「あ?!え、えっと何の話ですか?」
いきなり目をぱちくりさせた童子式神に彼女も驚いた。
「はっ?!寝ぼけてんのか?!さっきまで普通に話してただろ?」
「え?え、あれ?…あ、あー寝ぼけてるみてえですね。そうかボケちまったか…式神らしくねえっス」
困った顔で頬をかき、気を取り直した。
「すいません、なんの話しをしていたのでしょう」
「あ、ああ。この前、廃屋の玄関にケガレにまみれた奇妙な犬がいたんだよ。真っ黒でやせ細った野犬みたいなヤツで、ソイツに似たような札が貼られてた。その気配が塚で感じたのにそっくりだったんだ」
「はあ」
「あれは魔神か、使い魔なんじゃねえかな?」
「犬の使い魔?犬神ですか?」
世界にはたくさんの使い魔がいる。犬、猫、虫、蛇。中でも罪深いとされる蠱毒により生み出される強力ない魔がいた。
「犬神って犬っていうより、ネズミみてえなヤツなんだろ?だったら違うと思う。それにもっと邪悪な者だったよ」
「御札…新たに生まれた宗教の神でしょうか?」
ううむ、と考え込む。
「あれは神から零落した者じゃないかな?」と巫女式神は恐ろしそうに言った。
「やめてくだせえ。縁起でもないことを」
(──神という属性から転落した者は二度と元には戻れない。消えるか、よくてあっしのように──ように?)
「ちょい、童子さん?」
ハッと声に思考から呼び戻される。
「大丈夫かよ~。心配になってきた」