その頃周りでは 2
「そ、そう」
化け物じみた狂笑にビクビクするも、彼は脅かさずに一度、真顔になり、優しげに仏花を撫でた。
「現世の墓参りとやらをやってみたくてな。どうやら墓石も様変わりしていたが、これなら様式に沿っているだろ?」
「ヒイッ。神様ってこんな感じなのかしら…」
「さあ、私も神様を長くやってないから分からんね。ただ、故人を弔う気持ちはある。奴らにはないが、私にはある」
「神でも人でもない、あなたは確かに"鬼"だわ」
御霊である神霊は伏し目がちに「だろう」と肯定した。
「ツクヨミはどう思うか分からないけれどね」
ある廃屋に近しい建築物の室内で、カタカタと旧型パソコンのキーボードを打っている女性がいた。ここは事務室のようだ。
秘書だとひと目でわかる雰囲気を醸し出す、妙齢の女性。レディーススーツを着こなし、薄荷に似た匂いの香水を身につけている。
「恐れ入りながら有屋様の命令を叶える事は出来ませんでした」
護法童子が深々と頭を下げ、謝罪する。
「どうせ叶わないと分かっていたわ。ネーハ、あなた」
「あ、はい。あの、そのネーハと呼ぶのをやめてくれませんか…」
「何言ってるの。あなたネーハでしょ」
「ええ…ネーハです」
冷や汗を垂らしながらも肯定する。
「それにしても心外だわ。アレが悪神を肯定するなど、ましてや女神の命令を裏切るなんて起こってはならない事態よ」
「アレ、でございますか?…どうしますか。式神は始末しますか?」
「いいえ。こちらも心外な方法で童子式神を滅せればいい。それがアレへの罰。いいかしら?」
「あ、アレですか。はい」
「滅する方法は臨機応変に練りましょう。式神であるからには、本体を攻撃すればいいのだろうけれど…アレは許しはしない。そうね…本体、分霊だった頃の象徴で何かしたらどうかしら」
有屋と呼ばれた女性は、書類を整えお茶を飲んだ。
「…それは。象徴は分霊にとってなにより大切な物ですが…」
「ええ、だからこそよ。私は悪神が跋扈していた時代を生きていない。最近封じられていた怨霊が目覚めたって噂を聞いたわ。ソイツなら──何かしら動くに決まっている。情報を盗みなさい、ネーハ・プラカーシュ」
「はい」
「お利口さんね」
「…はい」