護法童子 2
もう一つ召喚した錫杖が首に突きつけられた。
「部外者?お前こそ──人界からしたら部外者だろう?式神の分際で私に楯突くなよ」
神妙な表情の護法童子からは殺気というよりかは盲信を感じる。ギリギリと喉に金属がくい込み、童子式神は呻いた。
「あ、が…!」
「子どもの姿で命乞いしたってダメだぞ。式とは醜く、おぞましい魔物なのだ。姿形には騙されん」
「うぜーんだよ!」
自ら錫杖をひきよせ、退魔の使役魔から奪う。投げ捨てると錫杖が落下し、反響する。
「私が触れればお前は灰となり消える。ん?」
バッと半回転し身を翻し、童子式神は彼から距離をとろうとした。が、焦った護法童子が素早く掴んだ。
「消えるがよい!」
ギリギリと腕を握られ、そこからヒビが入り、塵になって行く。
「くっ!」
式神は咄嗟に角髪から髪飾りをもぎ取り、塵になりかけた腕を断ち切った。──地面に落ちた腕の残骸が灰の山になる。彼はそれをみやり、軽蔑の目をよこした。
「自らの体を虐げるか。式神のやることはどこまでもけがらわしいな」
「そうでもしないと消えちまいますからねえ!」
ニヤリと威勢のいい笑みを浮かべ、そのまま重力に身を任せる。
「ならば頭を掴んでやろうか」
「はは、できるなら!」
ピョン、とウサギになり着地すると頭上から迫り来る錫杖を避け、素早い速さで物理攻撃をかわしていく。
「む、ならばアレを使うしかあるまい」
フワリと着地するや否や、シャラン!と手に取った錫杖を鳴らし、地面に突き立てた。ずしりと体が重くなり、童子式神は動けなくなる。
「な、なんスか?!」
「我々は護法童子。魔を退ける者。魔に対するために生まれてきた、これしきのこと容易いものだ」
「答えになってないッス!」
護法童子はゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「…!クソっ!」
不意に、空気が変わった気がした。この気配、いや、気の変わり様は呪術師が術を使役した際のもの──しかし、あの主にはマジナイを使える知識も魔力もない。
(これは──)
死を覚悟した魔の瞳に──あるはずのないモノが写り込む。イヅナだった。
細長いイタチに似た生き物たちが無から湧き出し、大量に護法童子へ押し寄せ絡みつく。
「わ!な、なんだーー!飯綱の法を使ったのか?!」
「え、あっしは、術など使えません!」
庭の物陰で寡黙が更に印を組む、童子式神はそれに気がつかず口をあんぐりとしているばかりだった。
「貴様!イヅナを操ったというのか?!」
混乱するあちらに首をブンブン横に振る。
「まさかっ!だから!あっしは式神です!つ、使い魔ですから!」
「こ、このっ!離れろっ」と、もがく子供にとてつもない数のイヅナが絡みついていった。灰の山になってもイヅナが無限に湧いていき、彼は呻き身をよじった。
「なんなんだこれはーっ!」
(あ、あっしにも、式神になって初めて見る光景ッス!)
「!」
視線を察知し、一匹のイヅナが童子式神を見やっていた。畏怖を抱かせる──他とは異様な気配を感じるイヅナは、ジッとこちらを見続けていた。
「な、なんスか。」
「…」
「まさか、おめえがイヅナを操ったんですか?ありえません。人間という主がいながら、思考をジャックするなど」