巫女式神曰く 3
「分かれ道を眺めてたんだ。この公道から分岐する私道が、どこに続いてくのかな…とか」
「他人の家ですよ」やれやれと肩を竦め、真っ直ぐに伸びる道を見やる。魔筋はもう眼前からは消え去っていた。
「不思議だったんだ。暗闇の向こうに違う大きな道があるかもしれない、そんな気持ちに駆られて」
「?変なやつッス」
爽やかな朝焼けを浴びながら、二匹は帰路を歩く。あんなに探し回っていたのに、星守邸宅の縄張りまでは近かった。ならまだ大丈夫そうだ。
「なんかさ!あたいら隠れて遊んでる不良娘みたいで楽しいな!」
「ふ、不良娘?あっしは確かに童女の格好をしていますが、中身は」
「いいだろっそれはそれだ!」
「よく分かんねえ奴ッス」
「なあ…」童子式神より少し先に歩くと、振り返る。
「競走しよう。どっちが先に神格を得られて、何者かになれるか!」
「競うのですか?」
「そう嫌そうな顔するなよっ!あたしとあんた、二人だけの約束だ」
「は、はあ…。や、約束なんて──」
「友達みてーだろ。人間はさ、友達になったら約束事をするんだってさ」
「式神たちも約束事をしますよ、人間と」
(約束。決めごと、秘めゴト。──契約。巫女式神、おめえまであっしを縛り付けるつもりか?)
「──」口を僅かに開いて、押し黙る。そうは今、言えない雰囲気だった。
「な?」無邪気に指切りを迫ってくる。二匹は静かに指切りを交わすと、静かに微笑した。
「これであたしもがんばれそうだ」
「巫女式神、」
「じゃあ!またなっ!」ブンブンと手を振ると、地主神が祀られていた神社へ続く道へ駆けていった。路地の角に消え入る巫女式神を見送り、佇む。
(ああ、拒絶できなかった、あっしは何をしてるんだ?友情ごっこ?人ならざる者が?人でないのに?何を──)
不格好な笑みを浮かべてみるが、やはり本当の人間のようにはいかずに項垂れた。