表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/166

叶わぬ理想 2

「え」

 自分は石畳の上にいるのではなく、上も下もない暗闇──宙にいるのに気づき狼狽えた。

「わっ!またどっかに?!」

 暗がりに瞬間移動した状況に、童子式神は目を丸くする。異界でもない奇妙な空間は音もなく、体は落下していった。


「うわあああ!ギャッ!」地べたに追突して、ぺたぺたと確かめながら立ち上がった。手のひらに異物があるのは分かる。床、地面──多分、そうであると信じたい。

「じ、地面はあるようですね…はあ…まったく驚きますよ!」

「だって!しょうがないでしょ?逃げるしかないじゃない!あんな危険なとこ!」

 謎の世界へ逃走し、無事にこの地にこれたのは奇跡だったのだろうか。

 呆れかえっていると山伏姿の子供に詰め寄られる。

「まあー…確かに鬼神のテリトリーに入ったのは初めてっス。で、ここはなんのテリトリーなんスか?」


「境よ。境界線の上」


「えっ」

「どこなのかは不明!悪い?!」逆ギレされこちらも怒りともつかぬ焦りに吠えた。

「困りますよ!どうやって帰るんすか!」

「困るってなに?!感謝ぐらいしなさいよっ!あなたも避難させたんだから!」

「あー!感謝しますから!」

 耳の近くで怒鳴られてうるさがった。

「この世界は太陽の影響を受けないようですし、助かりましたよ」

「そうよっ!感謝しなさい!もうっ二度と町には下りたくない!二度とよ!」

「はいはい…」

「だって鬼はなんでも食べちゃうのよ、人も人ならざる者も!一口でっ!」

 確かに伝承に鬼一口おにひとくち)というのがあるが…。


「落ち着けっス!」

「そっちだって興奮してるじゃない!」

 がくがくと童子式神を揺さぶる式神もどきを無理やり引き剥がす。しかし彼女の感情はまだぐちゃぐちゃのようだ。

「その鬼からわたしたちは生き残った!幸運だわ!」

「あ~!黙れっ!」

「本当によく食われなかったわね…何度でも言うわ!人も魔も神も分別なく食べ尽くすって噂じゃない!」

「そういうお前も主を食べたのに、食われるのがそんなに怖いんスか?」

「…し、しょうがないじゃない。誰だって食われるのは怖い、それにこの星にいる限り、食う食われるからは逃れられないの」

「まあ、そうですね」

 人ならざる者の世界が弱肉強食のように、哺乳類、爬虫類──地球に存在する生命体は食う食われるで成り立っている。それは地球が決めた事だ。

「…でもこのザマ。主に仕えても、食べてもこの地獄から逃げ出せなかったのよ?」

「地球の定めたルールですからねえ」

「何よ!あなただって主を食べてきたンでしょ!あなたに責められる筋合いはないわ!」

「おめえみたいに我慢できないグズじゃあないでござい。いくら食ってもあっしの理想は叶わない」


「理想?」

「あっしは──…いえ」




 かつて神の時代がありました。彼らは星の外から星の出来事を見守り、たまに壊し平和に過ごしていました。

 人類が誕生すると彼らは人類の進化を見張らなくてはなりません。

 彼らは自らの分身を地域に派遣しルールを定め、人々を監視しました。

 分身はある程度の自我を有し人々から崇められました。しかし彼らが干渉できる余地がだんだんとなくなり始めると分身達は人々から忘れられ、または消滅し、混沌を極めました。


 分身達は互いの存在を確立するため争いました。


 負けた分身たちはやがて人にすがるようになります。

 人々は精霊、鬼神を操る術として彼らを式神と呼びました。

 式神は人に仕えます。

 そのため勝った分身たちから疎まれ、惨めだと罵られました。

 しかし式神達は人の魂を得るたび確信します。

 この星に適応し、さらに力を得られる。

 それを聞きつけた魑魅魍魎が進んで式神になりました。

 式神は式神です。


 どんな異形だろうと同じ土俵に立ち式神としてやっていけることも分かりました。この星の生命が持っている力は壮大でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ