叶わぬ理想
「はあ…」考え込み、飲み込めない事実に戸惑う。
「あっしは、やはり分霊だったのですね…」
鬼神はその反応に意外そうだった。
「ふうむ…」片眉をあげるや──野鳥が鳴き始め、薄明を迎えていた。彼は夜が明ける前触れが訪れているのを知り、やれやれと話を切り上げた。
「おや、もう夜が明けたようだ。早いなぁ」
「ま、また時間切れっスか!」慌てふためくこちらにヒラヒラと手を振り、本殿に向かい出す。
「ま、待てっ」
「私は休むとするよ。まだ人の姿をとるのも意外と疲れるからね」
「あ、あ」
「はは、そういや、いつも私の式神のお相手ありがとう」
「式神?おめぇ、何様のつもりだ…!」
「式神…?いたかしら…?」這いつくばって山伏式神は首を傾げた。
「君は見たことないのかね?巫女装束をきた子供の姿をした式神だ」
二匹は衝撃で顔を見合わせた。
「えっ!あ、あの…!まさか、主って!」
──あたしの主の魂を食べればいい。それでいいだろ。
「食べられるわけないじゃない!!」
「食べる?」
「い、いや!!な、なんでもないわっ!」
バクバクした心臓を抑えながら、彼女は白々しい笑顔では取り繕う。
「巫女式神が」
「巫女式神と呼んでいるのかい?変な名前を貰ったねえ。」
「アイツとは何故契約したんですか?神霊が式神と契約など──」
「契約はしていないよ。私から生まれたのだからね。私が目覚める前からすでにアイツは産まれ、越久夜町の情勢をくまなく観察しあげた。アイツなりにね」
「あ、あの巫女姿の奴…式神じゃなかったの?」
「式神さ。私が式神として作り上げたのだからね。妬み嫉みを糧にして、主の魂を食らう人ならざる者…そう設定されてる。そうだろ?式神諸君」
顔を強ばらせた式神たちに彼は皮肉った冷笑で返した。
「鬼神が式神を作るなど、式神システムを崩壊させたいのか?」
「ほう…。何度も言うが私は一応鎮められた神でもある。そしたらあれは…眷属かな?だが式神として作ったのだから、式神だ。まあ、どっちでもいいだろう?」
「良いわけないだろ」
「少し失望したぞ、童子式神。現状を打破したいのなら固定概念に囚われてはいけないんだ。保守的な言動では神格を得られないじゃないか」
「て、てめえっ!」
飛びかかりそうになった童子式神に、鬼神は気迫ある声音で制する。
「さ、おかえり。お子ちゃまは寝る時間だ」
従わざるを得ない悔しさに俯き、落胆を堪える。
「まあ、落ち込むな」
そう言うと彼の輪郭はモヤになって消えていく。
「君が神格を得るのなら、再び会えるだろう」
「き、消えた?消えたわよね?」
山伏式神が大げさに辺りを見回した。
「いない……」
「あ、あ…、私生きてる…」
彼女は地面を這いずりながら、安堵する。
「…無様」
「な、なんですって?!このっ!」
売り文句に立ち上がろうとするも、体に力が入らずまた寝転がった。
「は、早くこの場から去らないとっ!ミンチにされるわ…!」
「はいはい、手を貸しましょうか?」童子式神は渋々手を差し出すと、ガッと力強く掴まれた。ビュンと視界がブラックアウトし、浮遊感に揺さぶられる。