零落した使わしめ
日が沈む。人ならざる者の時間がやってくる。ザワザワと蠢く夜闇の隅に、猫が目を離さずに佇む。
──異界と人界が重なる。
童子式神も例外無く、活動する。星守邸宅の庭先で、全く同じ容姿をした式神──寡黙に塚の様子を伝えていた。
影のある式神だ。同じ顔をしているはずなのに何を考えているか分からない。
「ふうむ…」
「あ、あの」
「うむ、近場の神域が壊されたのに神使がいないのは違和感があるのう」
「魔にでもやられたのではないでしょうか?神使は穢れに弱い、弱体化しているのなら尚更です」
神使と魔の違いは──神使はまたの名を神の使い、使わしめという。神の眷属のため、神に近しい力を行使できるのだが、神聖なる者である。穢れや邪悪なものにとても弱い。
(我々は魔と呼ばれる存在だ。あっしら式神は人に使えるため霊力こそ弱いが、神使とは正反対で穢れなどに強い…。神使への対抗はそれだ。防御を破り、その場の気をプラスからマイナスにしてしまえばいい。神使や神をプラスにするとしたら、の話…)
確かにあの場には穢れにまみれた魔がいた。だが魔にしてはおかしな気配だった。
(まるで上位の…神使のような…。久しぶり…?あっしは…神使の気配を知ってる…?)
「おい、其方、ぼうっとするでない。報告の最中であろう」
「あ、ああ…すまねえ」
(まさか、んなことないっスね!)
童子式神は内心、苦笑した。しがない式神が神格に近づいたら消されてしまうのだから。
「はたしてそれは魔だったのかのう…」
「へ?魔なんじゃ…。神使なわけ…」
神使が魔に堕ちることなどありえようか。
「その可能性も視野に入れておけ」
ゆっくりと寡黙が去って行くのを目で追い、緊張が解けため息をついた。庭先に残されて生ぬるい風を浴びて、冷水で今すぐにでも頭を冷やしたい。
寡黙は苦手ではないがどことなく緊張してしまうのだ。何か忘れている"コト"があるかのような気持ちになる。何か寡黙は含みがある。
早く主のお世話をしなければならない。疲れを隠しながら、歩き出した。