おにがみ 5
「主とも会ったぞ、童子式神よ」
「…」目をそらすも、その仕草も鼻で笑われる。
なじられる。彼は何かに苛立っている。
「人の世とは違う領域で、だが。君を従え、越久夜町を破壊する人間がどういう者なのか知りたかったんだ。あれは…駄々をこねる大きな赤ん坊って感じだったね。残念だ」
肩を竦め、不満げで。
「そりゃあそうでしょう。人間ですから」
「人間が皆、幼いとでも?保護対象だと?そんなことは無い。人間をナメるなよ、地球の生態系の頂点に立つのは誰だ?人間だ」
「なるほど、人類信者のようですね」
「私がなんだったのかも、覚えていないのか?」
「ええ」
ため息をつくと額に手を当て、わざとらしい態度をとる。
「……ふーむ」指の合間から鋭い眼光が垣間見える。
「随分その人間風情にご執心のようだね。意外だよ、私はびっくりしてしまった。見間違えたのかと思ったよ」
「わたくしは式神でござい。主に仕える種族ですから」
ムカムカしてきたこちらに、鬼神はさらにニヤニヤする。
「へえ。式神になると性格まで変わるのかい」
「さあ、知りません。あっしは前からこうだった気がします」
「…。分霊らに見せてやりたいね。ヒトっつうのはこんなに変わるってな」
「おめぇが何者か知らないが、それ以上言ったらあっしも何するか分からないぞ」
「へん、相変わらず可愛くない奴だ」
「何も知らないくせに。分かったような口を聞くな!」
「…君が話したいことへ戻そう、残念ながらここは私の縄張りだ。君らには譲れない。空白地帯を領地にしたいのならあきらめて帰るんだね」
「主さまと話したんだろ?なら」
「それもアイツと話をつけてある。もう一度言う。この土地は渡せない。アイツは言わなかったかい?」
「いいえ」
「ふーん、何だかおかしいねえ?」
「…。主さまはおめぇを信用していないと言うけとだ」
「へへえ?まあまあ。怖い顔はよしてくれや」
欄干から着地すると、スタスタと石畳を歩く。
「そうだ。あんたの主が怨霊と化したら私が横取りしに来てやるよ。人の魂より高カロリーだからねえ」
「下衆が…!」
「冗談さ。今はね。あのツマラナイ人間に惚れ込む──童子式神、君も食べてあげたいぐらいさ」