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鬼神の目覚め 3

 常闇に沈む、変哲もない神社の境内があった。石畳が仄かに月の明かりを反射している。

 辟邪の役割を担う狛犬が居るはずだが見当たらない。鳥居に神々の領域を示す、聖と俗を分ける壁──シールドが張られており、そびえ立っていた。

 童子式神は半透明に輝く壁をベチベチと叩くも隙がなく、光に引き寄せられた魔たちも追い返されていた。後ろにいる山伏式神をみる。

「ほら、あっしら魔は入れません」

「神域が健在ってことはまだ神はいるのね。な~んだ、成り代わってやろうかと思っていたのに」

 残念そうに彼女は言う。末恐ろしい考えだ。


「そう言えば、あれからどうなった?」

「え?神域の起点って…なんで知ってるんスか?!」

「は?私が起点まで案内したじゃない。あの後どうなったの?」

「な、あ、あっし、そんなこと…知らねえッス!」慌てふためく式神に式神もどきは眉をひそめる。

「忘れちゃったわけ?どこまで覚えてる?」

「あ、あれ?あ、えっと…」ズキリとする、頭を抑え童子式神は目を回す。

「ふうん。なんだかおかしいわね?」

「え、ええ…あっし、どうしちまったんでしょう?」

「さあ──」山伏式神が言いかけると、月影が蠢いた。


「お二人さん、そこで何してるんだ?」


 人ならざる者が話しかけてくる。鳥居の内側からひょっこり顔を出すと歩み寄ってきた。

 小学六年生くらいの子供は異国情緒溢れる服装を纏い、栗毛色の髪を束ねている。血の気が引いた顔はアルカイックスマイルを浮かべ、赤と黄緑色の不思議な瞳は好奇心を宿していた。


「ああ、…私はそんじょそこらのごく普通の魔だ。魔が神社の前で話し込んでるなんて、珍しいじゃないか」

「ここから地鳴りを聞いたのよ。あなたは知らない?」

「確かに、聞いたかもしれないなぁ」子供は腕を組みわざとらしく頷いてみせるが、それを気にせず山伏式神は喋る。

「みんな集まって来てるのね。気のせいかと思い始めてた所なの」

「ほう、そこのお二人は…式神だね?」

「ええ、あなたは?」

「ただの魔だよ。人の形をしているが、牙もあるぞ」指を入れ口を引っ張ると猛獣の如き鋭い牙が覗いている。

「物好きね。好きこのんで人間の形をとるなんて」

「人間も捨てたもんじゃない。文明を生み出す器用な手もある、意思疎通もはかれる言葉も発せる──どうだい?君たちもその姿へ利点を感ずるだろう?」

「もしかして人間信者?」

「ふむ。それも良いかもしれないな」

「変な奴に当たっちまったッス…」

「人好きさんはこの神社、良い物件だと思わない?地主神になれば越久夜町の地盤をいじれるわ」

 ゲスい笑みを浮かべる山伏式神に、童子式神は慌てる。

「な、何言ってンスか?!」

「だって、絶対この神社に何かあったでしょ?神が消失したかもしれないもの。成り代わって神力を得られるかもしれないし」


(みんな思うことは一緒ッスね…)


「もう先客がいるらしいぞ?残念だったなぁ」

「あらァ。興醒めだわぁ」

 あからさまに興味を失う少女に、こちらはさらに呆れた。浅ましいにも程がある。

「山伏の式神さんはそうとして、童子姿の式神さんもまさかこの神社を欲しがりに来たのかい?」

「えっ、えっと──呼ばれた気がするんス。あっしを誰かが呼んだんス」

「君を?」


「ええ」しゃがみこみ、優しく頬に手をやる人ならざる者をきょとんと見やる。ソッと耳に唇が近づき──

「それはそうさ、呼んだのだからね」

 謎の気迫に後ずさり、閃く。


(こ、コイツ、境内の方から現れた!)


「す、すまねえ!用事を思い出しマシタ!」

 ぐい、と何も理解していない山伏式神を引っ張り、道を引き返し始める。あの人ならざる者は引きとめてもこない。不気味だった。

「痛い!何するのよっ!」

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