鬼神の目覚め 2
童子式神は延々と続くかのような路地を歩いている。異界の月明かりの下、影がなく電信柱の影を気にしている。
人ならざる者たちがこちらを伺っている。異物を見る目で。
「寡黙とか、巫女式神とか、アイツらついてきてないよな…」
キョロキョロして、ホッとした。
(──地鳴りがしたのは住宅地の方。その方向にあるのはある地主神が祀られた神社だ。田舎の町としては少し大きな神社で、他は地鳴りの原因になりそうな工場やらはない)
「神社が原因だとしたら、普通のコトじゃねーな」
(──祭神になにかあったのだろうか?そしたら、それってその神より強い何かが…)
「どうしちまったんだろ。今までこんなこと……」
(──越久夜町はおかしくなり始めてる?)
「町の結界を壊した反動、とかじゃねーよな」
童子式神は主の言っていた言葉を思い出す。まさか神使たちも人間が結界を壊すとは思いもしないだろう。
「ゆらぎもひでえし、主さまのやっていることは越久夜町を…」
ハッと口を噤んだ。式神としてよからぬ事を言ってしまったのだから。
「──ん?」
(──人ならざる者の気配!)
路地の奥に人影があり、なにやら挙動不審に歩いている。童子式神は息を潜めながら近づき、やがて山伏式神が町を彷徨いているのを見つける。
「どうしたんスか?縄張りは?」
「それが、地鳴りがした原因を探している最中なの。あれのせいで石がちょっと劣化したんだから」
「そ、そうなんすか…」
「あなたこそ、なんで私に付きまとうのかしら?」
「はあ?あっしは主さまの命令に従って新しいテリトリーを」
「へえ?まあいいわ。地鳴り…あっちから聞こえたのよね」
指さした先には地主神の神社があった。童子式神は冷や汗が垂れる。あの神社は…町としては中規模で、どっしりとシールドが貼られている。…いや、それはいい。
「神社からなんて。不思議でしょ?それに断末魔みたいみたいだったわ。捕食者に食いちぎられたみたいな…ふふ」
危ない笑顔になる山伏式神に童子式神は引いた。
「そうスか…。断末魔というのはあながち間違いではない気がシマス」
「行ってみない?なんだか楽しそうじゃないの」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、先に歩き出した。