神域の源流 8
(高次の神の文字が読める…!やはりあっしは──)
──我々と同じになるつもりか?神のなり損ない目が──
蘇った記憶に現れた大きな影の言葉に冷や汗が垂れる。神のなり損ない。
(自分は分霊なのだろうか?それとも…人間だった?)
(人間なら、なぜ人ならざる者に?)
「じゃあ、早く行きましょう。夜が明けちゃうわ」
(──どっちなんだ?分からない。あっしに何が起きてるんだ?)
混乱に乗じて、ぐにゃりと景色が歪む。その中から手が伸びてくる。
「わっ」
「それは困る!」
童子式神は再び正気に引き戻された。なすがままに巫女式神に引っ張られて、慌ててついていく。
「いてえっス!」
「おお、近くで見るとでかいな」
「おい!」
「ほら、越久夜町を守る神域の起点よ。内側から触れても何もならないけれど、外から触れたらお陀仏でしょうね」
コンコン、と硬い半透明の壁を叩く。オーロラのように美しいそれに三匹は圧倒された。
「強度は…」跳ね上がり、蹴りをかましてみた。見事に跳ね返され、転がる。
「おっかねー。あたしら閉じ込められてるんじゃないだろうな?」
「箱庭、と言って過言じゃないわね」
「箱庭?この町自体が?」巫女式神は首を傾げる。
「そうじゃない。それとも虫かご?何がいいかしら?」
吐き捨てるように言う。
「外敵から守ってくれるいい面もあるじゃねーすか」
「それあなたが言う?」山伏式神が呆れた口調になる」
「ま、まあ」
にへらと笑い誤魔化す童子式神にヤレヤレと式神もどきは肩をすくめた。三人は下から階段を昇る音がするのに気づく。カツンカツンと硬い金属の音が徐々に近づいてきた。
──高次の神だ。
ハッとして、咄嗟に祭壇の端にある物陰に隠れた。
すると清廉な衣を着た少女が現れ、開かれた扉を閉じる。あれは神だ。
山伏姿の魔が小さくつぶやく。
「まずい、あれは高次の神だわ…」
童子式神は素朴な少女をじっと魅入ると、チラリと黄緑色の瞳がこちらを見た気がした。慌ててさらに身を低くした三匹に、少女の形をした神霊は目もくれず階段を降りていく。
「あ、危なかったな…」
巫女式神が衣服についた枯葉を払いながら言う。
「あの女、何回か見たわ」
「お、女なのか…?あれ」
「高次の神ほど男だの女だの気にするのよ。あれは女よ。分かるわ。オンナの勘よ」悪い顔をする式神もどきにドン引きする。
「は、はあ…よく分かりませんが、見つからなくて何よりです」