神域の源流 6
山特有の急勾配を抜けると草木に埋もれた、苔むした階段らしきものが覗いている。かなり昔の物なのか風雨に晒され、階段の角や表面は摩耗していた。だが所々謎の絵が描かれており、魔除けだろうか?
人間が作った人工物だろうが、日本特有の文様ではなかった。
最上段はずっと向こうだ。
「こんなのあるなんて…知らなかったワ」
巫女式神が遙か上を見ながら唖然としている。
「越久夜町であって、そうでないのだから当然よ。現実に限りなく近い、別の世界にあるのだから」
「そーか…」
霧がかかり上層は見えない。童子式神は階段を上る──あの巫女の姿を幻視する。
(この階段だ…)
「町の神域が作られたのって随分むかしなのに古い感じがしないな」
童子式神たちは人の形を保ち、階段を登る事となった。
「神に時間なんて必要ないから、この空間もきっとそうなのでしょう」
童子式神は複雑な顔をする。「あっしらはある程度時間に縛られますから…」
「なんで悲しそうなんだよ?」
「さあ?よく分かんないわ、コイツ」
「…悲しいのです。時間に流され、自分が薄れていくのが。あなた達には分からないかもしれませんが」
巫女式神は後ろ手を組みながら、訳が分からないと眉を顰める。
「まあ、魂を食べてから少しだけわかる気がする。人間の気持ち」
階段を上りきると、燭台がたくさん陳列されていた。
試しに巫女式神が鬼火を燭台に灯す。文様のようか、絵のような強いて言うならばマヤの神殿に似た文字がそこかしこに施されている。
祭壇だったのだろう。植物に埋もれ、妖の火に照らされる。
童子式神は深く掘られた地球の文字ではない記号をなぞった。
「外の神々はよく分からない物を持ち込むわね。この星の生命には馴染まないわ」
「おお!これがシールド?」
「いいえ。この先よ」
式神もどきは小走りに案内する、パタパタと嫌に足音が響く。