神域の源流 3
呆れながらも山伏姿の式神もどきを見やる。魔物めいた血の気のない顔に人らしい表情が不釣り合いで居心地が悪い。
巫女式神といい、魔から逸脱している。
彼らは人間を食し、性質を学習したのだろうか──
「童子なんとか、っていうの?あなたも元は神なんでしょ。どうして式神になったの?」
「消えたくなかったのでしょうか…」顎に手を当てて記憶を探る。
「私もそうかも。式神になると奇々怪々な出来事に巻き込まれやすくなるのかしらね?ここを知ったのも──」
「式神になってからなんすか?」
「まあ。式神になって色々あってから、人間なら自我っていうのかしら?それがはっきりした頃に、強烈な光と誰かがテリトリーに侵入してきた。びっくりして見に行ったら蛇崩を神々が列をなして歩いていたの」
草藪からこっそりと覗き、神々しい光を発する神霊たちが荒れ野をゆくのを見守る。赤い瞳に映る影。煌めく光。
なんて鮮烈な光なのだろうか!
「あの輝きを人間どもが極楽浄土のものと思い込むのも、無理はないわ。」
「そうですか…」
「もしかしてこれまでも出くわしていたのかもしれないけれど…何故かあの光に惹かれたのよね」
「ええ…」何かを言おうとした童子式神の耳にパタパタと裸足で走る音が聞こえた。
「おにさんこーちら」
前から幼い無邪気な声が聞こえ、人ならざる者が走っていった。頭にはネズミの耳を生やした小さな子供。何故か見た事あるような、デジャヴを感じた。きゃらきゃらと子供が走っていくのが目の端に見えて、はっと振り返りそうになる。
「だめよ、忘れちゃった?」
「え…今、人が」
「居なかったわよ」
「な、なな!な!まさかお化けか!」目を煌めかせる巫女式神に、山伏姿の式神もどきは意味深に笑う。
「虚ろで何も無い空間にも誰かは必ず居るわ。遭っても関わらない事ね。帰れなくなる」
「は、はい」頼りない顔をする童子式神。
「ふふっ人間みたいな顔しないで」
「に、人間……」
「会ってみてかったぜ~、いいなあ」
「…いませんよ。きっと幻です」