神域の源流 2
縄についた紙垂にノイズのような、奇妙な揺らめきが起きる。童子式神はそれをみながら周囲を見回そうとした。
「振り返っちゃだめ!」
山伏の式神もどきがあわてて止めた。
「ここからは振り返ったら先に進めなくなるから…」
「見るなのタブーってやつスカ」
何かを──見てはいけない、と禁止が課せられる。例えば黄泉の世界に居る腐敗した妻を、または機織りをする鶴を。なのに見るな、と決められ見てしまう。
破った者には罰が与えられるのだ。
「ええ、そうよ。何があっても振り返ってはだめ、前を見てひたすら進むのよ」
「加えて落石というか、あのしめ縄がちぎれたら巻き込まれて圧死してしまうから上も気をつけて」
上を指さし、幻想的な光を見すえる。
「変な所だな」口をとがらせる巫女式神。
「私たちが住む異界ともまたちがうルールで成り立っているもの。私たち境の神々もただ利用させてもらっているだけだし」
「そうなのか。親切にどうも」
「あなたの主の魂をもらえるのなら、それぐらいはするわ」
「へえ~」にやりと笑う巫女式神に彼女は焦る。「いちいちなんなのよっ!」
三匹は話しながら道を往く。そんな中、童子式神がぽつりと零した。
「荒れ野へ人が寄り付かなくなるほどに、人を食うとは……あっしには真似出来ねえっス。…魔神から堺の神として信仰されても人は寄り付かなかったのですか?…」
「確かにそうねえ…私が生まれる前から、荒れ野は特段人が来ない場所だったらしいわ。神域の起点があるくらいなのだし、何か特別な意味合いがあったんじゃないかしら?」
「そうかもな~、何かヤバいモンが眠ってたりな」と巫女式神。
「やめてよ、そのヤバいモンに食べられたくない」
「お前が生まれたのかも必然かもなぁ」
「わ、分からないわ。必然とか偶然とかっ!でももしヤバいものに寄り付かなくなったのは皆、私を信仰したからよっ」
照れながらも自信ありげに宣言する。
「はあ…もしも、の話ですからね?」
「ハハッ、神さまって全員こうなのか?」
「さ、さあ…」