荒れ野の式神もどきと童子式神の蘇る記憶 6
矢継ぎ早に声をかけられ、冷や汗を拭う。どうやら本当に白昼夢を見ていたようだ。
「あ、え…あ、ああ…すみません…」
「腐った人魂でも食べてきたのかと思ったわ」
現実の景色は何ら変わりはなく、そよ風と荒れた草薮が広がっていた。あの不気味な触手を生やしたバケモノはいない。童子式神は慌てて笑みを作り、気を取り直した。
「式神は人魂を食いませんよ、主以外は…」
「減らず口を叩けるなら大丈夫そうね。全く、近頃の式神って…。──ここで野垂れ死なれたらテリトリーが汚れるわ。式の残す穢れはしつこそうだもの」
「お前、本当にそれでも式神か?」
巫女式神は怒りを含んだ様子で詰め寄った。
「し、しし、式神よっ!」
「そう、とにかく!石を触らないこと、あと傷つけないのと、近寄らないこと。約束してくれるかしら?」
「ええ、約束します」
「こんな奴に頭下げるなよっ!」
深々と頭を下げた童子式神は静かに切り出した。
「…この荒れ野をぬけた先に神域の起点とやらががあるはずっス」
「ええ、あるわよ」
「でもどうしてそれを?──不思議に思っていたけれど、そこいらの式神が知れるはずない情報よ」
「神々がいました。その"神域の起点"で、集っていました」
「えっ、ええ、どうしてそれをっ?」
余裕のある様子から一転、式神もどきは慌てる。「貴方、何者?」
「…思い出したんス」
「えっ、え?」
「どうしちまったんだよ、童子さん」
唐突な言動にさすがに巫女式神も焦ったようで、不安げな顔をしている。
しかし先程の幻覚を説明する気は起きなかった。
「あっしは…いえ…少し正気に戻ったくらいです。」
顔を見合わせる二匹に童子式神は額の汗を拭い、話を続ける。
「神域の起点は知っていても、行き方をしりません。どうやら…おめぇは神域を深く知っているみてえですし」
「ええ、シールドの…神域の起点への道を知っているわ。よくど偉い神々が荒れ野を通って、こそこそしているのを見ていたから」
「どえらい神?」
「越久夜町を仕切っている神々よ。ここら辺の魔どもは見慣れているんじゃかいかしら?私も秘密でついて行ったり、散歩しに行くもの」
「偉い神々もアバウトだなあ…」巫女式神がううむと唸る。
──大当たりだ。喜びたい所だがすぐさま平生を装った。
「でも、それって一般的に、他人へ容易く教えるべきではないものなんじゃないかしら?それに神々を怒らせて食われたり、殺られたくないもの」
「すまねえ。シールドまで連れてってくれねぇスか」
頼み込む童子式神に彼女は腕を組む。
「私たち貧弱な式神が、神の怒りなんて受けたら虫けらみたいに一瞬でお陀仏よ」
「そこをなんとか。なんでもするんで!」
「…条件がある」