荒れ野の式神もどきと童子式神の蘇る記憶 5
視界が、思想が混濁する。人ならざる者が持てる記憶の許容量を超える。吐き気とめまいで、ぐちゃぐちゃになった。
ぐにゃりと歪んだ目前に大きな背の存在がそびえる。ざわめく数多の触手を背負ったそれは山伏姿の式神もどきかと思った。
「わっ!誰──」
「我々と同じになったつもりか?神のなり損ない目が」
鋭い指を突きつけられ、唖然としているとたくさんの手が体をつかみ引きずり落とそうとする。
「!」
奈落の底に引きずり落とされ、落下する。
「やめろー!」
『くやしい──』
落ちていきながら、見ず知らずの誰かの気持ちが蘇る。
『私は…民に尽くしたのに!何故?!』
『どうして』
手を伸ばす先に妙齢の女性がおり、驚いた顔をしている。しかし細部まで伺えない。逆光でうまくみえないからだ。
(──あっしは裏切られたんだ!)
ベチャッと地面に叩きつけられ、場面は変わった。
目を恐る恐る開けると神域の儀式の場に変わっていた。女神の隣に巫女が居る。
分かるのだ。これが儀式なのだと。
(──これって主さまが夢で見た景色と同じじゃ…)
(あれは自分か?それとも…)
「あれは神域の起点だ。ルールを定める構成の一部さァ」
いきなり先程の触手を纏うバケモノが現れ、悪さを囁く。
「あれをいじればお前でも町を支配できるぜ。面白いだろう?」
「おめぇ…!それは…!そんなこと!」
巫女の反論の焼き回しをしている。童子式神は我に返る。
(あれ?いや、あっしは?)
「忘れろ」
場面がまた変わる。目まぐるしい展開にもはやなすがままだった。
いつもの、庭先に寡黙がいる時に展開される暗いテリトリー。内心ホッとしながら振り返る。
「そちにそれは必要のないものじゃ」
寡黙が厳しい形相で言う。
「寡黙…?」
(──何があっても忘れるものか)
脳内に響く声。
(──己が分霊であったことを)
彼の幼い手がゆっくり近づいてくる。
(──霊力を封じられたとしても、脳みそから記憶を削ぎ落とされても────)
「ハッ!」
半分の月がのぼる空が広がっている。目を見開き、あまりの白昼夢にフリーズしたままになってしまった。
「めんどくさい奴だねえ」
「めんどくさい?!あなたお気楽でいいわね!きっと元はそんじょそこらの精霊でしょ?!」
「そういうのは頂けないなぁ。お互い式神なんだ。上も下も関係ないじゃない?──ん?」
「童子…?」
ボーッとして脂汗を流し、尋常ではない様子の童子式神に巫女式神はあせる。
「どうしたんだよ?酷い顔してるぜっ!」