荒れ野の式神もどきと童子式神の蘇る記憶 4
「まだアイツはでてこないな」
ススキとガマが乱立した荒れ野を散策しながら、あの式神もどきを探している。驚いたウシガエルが鳴きながら跳ねていき、それを目で追う。
ベタりと着地した先が風化した石塔婆である板碑だった。
これを一度目にした事がある─山伏姿の式神もどきがいた板碑だ。
「何の石だコレ」
「えっ。板碑でしょう」
「踏まないで!」
いつの間にか板碑の横にあの式神もどきが現れて、立ちはだかった。
「この石に触ったらあんたらの息の根を止ますからねっ!」
通せんぼをする山伏姿の子供に巫女式神はうんうんと納得する。
「まさかあんたの主さま?食ったなんて嘘で、石になっちゃったんだね?」
「バカなの!?」
「人の血肉が染み付いた忌まわしい石なのかもしれません。」
「違うわよっ!──これは依り代…という物よ。人間どもがそう言っていたわ」
「元神様?!」
驚いた彼女は山伏姿の人ならざる者を二度見した。
「ええ。私は"神"という者だったの。魔よりランクが上の、とても霊力のある者だったんだから」
「胡散臭い言い方するなぁ…。しかし奇跡だな、式神になる前のことを覚えているとはねえ」
興味津々の巫女式神に「式神になる前…」
童子式神は虚をつかれた様子になる。
(──確かに自分は"宇宙にいる何かで、飛来した化身"だった。あっしは、この式神とは違う。忘れてしまったんだ)
嫌な言葉が過ぎる──必死に振り払う。
「おい、平気?」
「ええ、あっしのコトは気にならさらずに…」
心配され、無理やりにこにこと取り繕う。山伏姿の魔物は何を思ったのか、また語り出した。
「…自分は人間どもにとりわけ荒御魂、魔神、荒ぶる神と呼ばれていたわ。荒れ野に巣食う暴食魔神、なんて不名誉なものまであるし」
「うわ、また語り出した」
「本当に荒れ野の魔神なのですね」
「ええ、と言っても、善悪は人間視点で…私はただ…い存在していただけ。なのに、人間達が私を迷惑がってこの石に閉じ込めたのよ。式神に堕ちてもこの石さえあれば私は何者か覚えていられる。私の根幹なの。だから…この石が大切」
大切そうに板碑を撫で、ため息をついた。
「何者か…覚えていられる…」
童子式神はなにか思い出しそうになり、焦りが生まれた。
──忘れるものか。
脳裏に暗がりの中央で角髪の子供が俯きながら歯を食いしばり、立ちすくんでいる映像が浮かぶ。
誰かがその子供に近づき、それがいつだかの過去の自分だと知る。彼は怒った顔をして振り向いた。
「あっしは忘れない。何度でも思い出してやる」
「えっ…」
近寄る誰かの位置にいる現在の自らの──童子式神は困惑した様子で立ちすくむ。
「おめぇは?ダレ…?」
様相の違う自分に、自然と冷や汗を垂らす。
(あっしが望む、理想の計画。それを忘れてはならない)