荒れ野の式神もどきと童子式神の蘇る記憶 3
「ドウリで…。式神システムは人間の言う会社や組織みてーなものです。おめぇも式神なら就職してるはずなのに、知らないとは…」やれやれ、と肩をすくめるジェスチャーをする。
「フツー新入社員に優しく手取り足取り教えるのが、先輩ってもんよ!よろしくぅ!先輩っ!」
「はあぁ…」
「──けどさ、童子さんはこの町で何回式神やってんだい?」
「はあ?そっ、それは…確かに…なんででしょう?気にしてもなかったっス…」
作り物めいた月を見上げながら、しみじみと言う。半月の月に雲がかかり、薄ぼんやりと光っている。
その仄かな月光に童子式神は照らされる。
「多分あれさ。ウンメーってやつだね」
「は、はあ?オメー…本当に運命ってやつが好きっスね」
「へへっ、そうだろ?」にこりと嬉しそうに巫女式神は言う。
運命など、人が気にする言葉だ。異界には運命という生易しい言葉は存在しない。無だ。
何も、ない。
優しげな大人っぽい笑みを浮かべる彼女に、何も言えなくなる。
式神は変幻自在である。しかし好みで姿を変える訳ではない。主である人物が基本的に定めた容姿に固定される。
童子式神ならウサギであり、和装をした子供になる。
巫女式神はお決まりの巨大なカラスになり、空を飛ぶ。カラスが基本の姿らしい。
蛇崩につくや否や、足でウサギを掴んだまま、トサッと着地した。
「どうもっス」
「お安いごようさ!ついでになんかくれるんなら嬉しいねえ!」
「ハァ?何をスか?」呆れながらも首を傾げる童子式神。
「あんたの魂、とか?」
「はあ?!」驚くウサギの式神に、巫女式神はケタケタと笑った。そしてお構い無しに人間形態になる。
「しかしベチャベチャだな、歩きにくい」
「…。もう人の手が入らなくなって随分経ったみてーですし」
「へえ。荒れ野って人が使っていた時期があったのか、知らなかった。この有様じゃあ分からないよ」
「ええ、鎌倉時代は…」
「カマクラジダイ?なんだいそれ?」
聞きなれない言葉に首を傾げる。
「人間が区別している時代という、考えです。…戦国時代は、人間が戦をしていた時期がありましたね。その頃でしょう。寡黙が言っていました」
「寡黙、ねえ。ソイツって物知りなんだね」
「町の歴史に詳しい、という印象はあります」
「式神が人間の時間に詳しいのも、ありうることなのか?」
「うーん?あっしが知らなすぎなのかもしれません」
「それが普通だと思うぜ。人の歴史なんて勉強するのは、物好きだけさ。他人の事情をわざわざ覗くのは人ならざる者らしくない」
「…物好き、ですかね」
「ああ」いかなる時も博識な寡黙を思い出して、童子式神は不思議がる。彼はイレギュラーなのだろうか?
(寡黙について良く考えたことは、あまりない。それも人ならざる者として普通なんだろうか…)