山伏姿の式神 7
いきなり興味をなくしたのか、シッシッと雑に追い払う仕草をされた。
「お子ちゃまたちは早くおうちに戻りなさい。リセットされたくなきゃ帰ることね」
「あの、また来てもよろしいですか?」
「そうねえ…難しいことは次に会ってからにしてちょうだい。今日はもうおしまい。だからといって次に会えるかは分からないけれどね」
小馬鹿にした様子で、スーッと体が半透明になるや否や居た場所には崩れかけた板碑があった。
「消えた…」
「やな奴っス…」
透明な夜色の世界が明け初め、山から鮮烈な朝日が漏れだした。人ならざる者たちが森へ逃げていく気配がする。こちらも早く持ち場に戻らなければ。
童子式神は慌てて歩き出した。
「モタモタしてる暇ぁない消滅させられるっス!」
「リセット?」
「ああ?テリトリー外で夜が開けちまうと、式神の中の、今日の痕跡が消えちまうんです!」
「え!え!?飛ぶぞ!」
「あ、わ!」 ぐい、と鷲掴みにされ、引っ張られる。
「わあああ!いきなりやめろ!」
カーテンが締め切られ、ホコリの溜まった窓枠と錆び付いた金具。古臭い木の匂い。仄暗く街灯の明かりが差している暗い部屋で童子式神は頭を恭しく下げた。
「なるほど、アクシデントで今回は見つけられなかった…と」
主は本を読みながら静かに言った。青白い顔は今日も具合悪そうだ。
「はい」
「式神も道に迷うとはな」鼻で笑われるが童子式神は平生である。
「ええ」
「所詮夢は夢なのかもしれない…、どうする。式神?」
「探索を続けましょう。人間は時折不思議な力を発揮します。主さまの夢も、そうなのかもしれません」
「不思議な力、か。人間如きがそんな芸当できるはずがないさ」
主は童子式神が何かを隠しているのを察するが、頷いただけで追求はしなかった。
彼は思考停止している。何も考えずに、こちらに判断を委ねる。
「防御壁だけ確認できればいい。あとは好きにしろ」
「ありがとうございます」
「俺はお前を信じている。だがお前は人間に使われている身であることを忘れるな」
釘を刺され、双方は眼力で勝負する。しばし沈黙が訪れ
「当たり前ではないですか」
『そうよ、魂さえくれりゃいいのよ』
『おっかないねえ。しかし式神とは、人間に操られた哀れで摩訶不思議な存在だろ?それに自我があるのかないのかは本人すら分からない。あんたらは誰の感情で笑い、泣き、誰のエネルギーで動いているのかい?』
蛇崩での会話が脳裏に蘇る。
(そうなのだ。あっしは主から感情とエネルすすギーを貰う、傀儡で───でも、)
「…お前、最近変わったな」
眉をひそめ俯いているこちらに主は意地悪い顔で片眉を上げた。
「えっ?そうですか?」
小首を傾げ、きょとんとする式神を前に、主は自嘲気味に笑みを浮かべた。
その仕草を理解出来ず、ますます不思議がる童子式神だった。