山伏姿の式神 5
「このっ!」巫女式神がフッと軽く息を吐くと、吐息が炎になり物質のある闇を焼き払う。
人ならざる者に妖力を含んだ炎は効かない。人が使う強いエネルギーを持つ、あの炎でなければ…。
「そんななよっちい攻撃聞くものですか!」
「あの闇、油分含んでないのか?!」
「これをなんだと思ってンスか?!タールじゃねーんスよ!」ギリギリと圧をかけられ、締め付けられ、苦しむ童子式神は悲鳴をあげそうになる。
(ここはアレを使うしかねえ!)
「んのれええ!」角髪を結っていた布につけられたひし形の髪飾り。
星と月──三日月と満月があしらわれたその髪飾りが燐光を放つ。満ち欠けのある二つの月がひとつになるや、ひし形は大きくなった。
髪飾りは飛び立ち。ブンッと大元の触手を断ち切った。
質量のある闇が消散する。
「なによ!式神のくせにっ!」
謎の式神がさらに手持ちの触手を使い、何本も迫らせてきた。
「こっちのもんよ!」
童子式神は髪飾りをブーメランにして、まとわりつく硬い暗闇を断ち切る
「──燃やせ!巫女式神っ!」
「えっ?!あ、ああっ!」
巫女式神は体から眩い、人界の炎を出現させ、怯む彼女に突っ込んだ。
「ぎゃああああ!」
炎に包まれ断末魔を上げる様子を二人はゼーハーしながらみまもる。
「い、いまさ…巫女式神って…」
「え、あ、ああ…」
(つい呼んじまったッス…)
「嬉しかった。あたしゃ巫女式神だ」
煤けた頬を緩め、少女は笑う。その笑みがなんとも人臭く奇妙に思えたが、不思議と嫌ではなかった。
「…負けたわ。煮るなり焼くなりなんなりしてちょうだい」
「おお?いきなりしおらしくなったぜ? 」
「…おめー。主はどうしたンすか?」
「食べた」
「え?食べたって?あんた契約満了してない感じじゃないかい?」
「我慢できなかったのよ!悪い?」
──式神とは契約満了未満で魂を食べると、式神システムという呪縛から除外されてしまう。一見、呪縛から解かれるのは良い事に思えるが、あくまでも式神のような者のまま存在することになる。
生きているのが地獄のような状態に置かれ、いつかは自我を崩壊させて消えてしまうだろう。
二匹は剣幕に気圧されて、押し黙る。山伏式神はため息をついて、座り込んだ。
「だ、第一、我慢なんて、人ならざる者はしなくていいじゃない。そういうのは人間だけにして欲しいわ」
「はあ、なんというか…人ならざる者らしい奴っス」
「それに主も誰だったかは忘れてしまったし…」
「お、語り出したぜ。忘れるなんてヒデェ奴だナ」