光り輝く主人公 2
「ああ、短い間だったけど」
鬼神は巫女式神の片割れを解放し、天の犬として放つ。
巨大な犬は遠吠えをすると、宙にとびあがる。空気を蹴り、天の犬は大口を開け金星を飲み込むと、元の世界へ戻っていった。規則のあるゆらぎが顔をのぞかせる。
「偽物の星が消えた?…あれは!」
鏡を持ち上昇していた巫女式神が空を見上げ、差し込んだ薄光を望む。
「カオスが晴れたっ!」
カラスの翼をさらに羽ばたかせ、空を昇る。光へ向かい、鬼神の眷属は逆光の中、点になった。
「はあはあ…」
空気が薄くなり息が上がる。巫女式神は鏡を掲げた。
「クソっ!こんな光じゃ足りねえっ!」
そう叫んだ途端、神鏡がずしりと重くなる。あまりの重さにバランスを崩し、落下した。ビュウビュウと風鳴りが聴覚を支配し巫女式神は目を固く瞑る。
「終わりかよお!」
あまりにも重たい鏡を離しそうになった瞬間、墜落する巫女式神を何かが受け止める。大きな金翅鳥が羽を広げ、光を放っていた。
「!」目を丸くしてフワフワのお腹に脱力する、金翅鳥の眩さが暗闇を裂いた。
「た、助かった。」
その瞬間、常日頃の人間──ネーハの姿になり、お姫様抱っこをされていた。
「君を見つけられてよかったよ」
「ありがとう…もう、無理だ…あんたがやっておくれ…」鏡を手渡そうとする巫女式神に叱咤をとばす。
「へこたれるなっ!──希望を抱き続けるんだ、巫女式神」
「希望ってこの状況で抱けるかよっ!」
「希望を抱かなければこの神鏡は輝かない。怖いかもしれないが、今は無視しろ」
「無視って、無茶言うなよ…怖ぇよ」涙を拭きながら、眷属は食い下がる。
「大丈夫だ。巫女式神、君はまだやり残したことがあるんじゃないか?」
ネーハは力説する。「童子式神に会うんだろう」
「うん…」
「ならば希望を捨てるな。童子式神に会うまでは」
「会えるかな」
「会えるさ──きっと」その言葉に巫女式神は胸を打たれる。かつて自分の主人にいった言葉だったからだ。
「今は、良きことも悪しことも何もかも忘れて希望にすがれ!いけ!巫女式神っ!」
羽を広げ、巫女式神を抱え上昇する。
「よく言うよ、お前さんが──」
ネーハを踏み台にしひときわ大きな翼を広げ、巫女姿の人ならざる者はもう一度飛びたつ。
「待ってろ!童子式神っ!」
護法童子は羽ばたくのをやめて落下する。頭から加速しながら落ちていく。
(ああ、全知全能の神はこれを…課すために私を護法童子にしたのか…加護がなくなれば──無明が、待っている)
(それも、受け入れるしかない)
光り輝く巫女式神の背を眺め、満足げに下に落ちていった。
一方、式神は女神から託された鏡を手に上空に旅立つ。あれだけ重たかった鏡が軽くなり、心做しか温かい光を放っているように思えた。
巫女式神の体が輝き、目の色が黄緑色に変わる。力が湧いてくる。
「あたしは…!決めたぞ!何者なのか!こっちの勝ちだ!こっちの勝ちだぞ!」
「童子式神っ!」
ゆらぎから太陽が覗き、巫女式神は鏡を掲げた。光が炸裂する。
有屋 鳥子と山の女神が泥に浮いた瓦礫の上に立っている。
「先輩、いいのですか。あなたのルールは無くなるんですよ」
閃光が降り注ぐ中、二人は話す。支えられた山の女神はそれを仰ぎ、ポツリという。
「ああ、いいんだ。もう私の役割は果たされた。そうこの星も言ってる」
「…私には分かりません。いや、理解したくない」
肩に寄りかかり、有屋は瞼を伏せた。女神は光りをしかと見て、瞳に巫女式神を写す。
「使わしめになったんだね。巫女式神」
ゆらぎから太陽が覗き、巫女式神は鏡を掲げた。鏡がピシピシと悲鳴をあげ、砕け散った。
同時に砕け散った破片が空に巻き上げられ、大きな鏡面に変じる。上層と繋がり、太陽の光が町に降り注ぐ。
視界が光に包まれ、巫女式神は童子式神を見つけ手を伸ばした。




