山伏姿の式神 3
「ンン?荒れ野?」
ニヤァ、と意地悪い笑顔が近づいてきて、がっしりと肩を掴まれた。
「教えてくれよ〜」
「嫌です!」
「じゃないとアンタの主さまにイタズラするぞ」
「ああもう!式神が荒れ野にいるンすよ!」
「荒れ野に?いや、荒れ野ってどこだよ?」
「あ、いや…言い間違えたんスよっ!」
ニコニコと胡散臭い笑みを返し誤魔化すこちらに巫女式神はそれをニヤニヤと重箱の隅をつついてくる。
「気になるねえ。荒れ野って所に何があるんだろぉ?」
「聞き間違えたんスね…」
「素直になれよ~!カツ丼頼んでやるからさ!」
「カツ丼…?なんスかそれ?」
「知らないのかい?んで、荒れ野で何があったんだ?教えてくれ、頼む!」手を合わせ懇願する少女に渋々折れて、話し始めた。
「しつけー奴っス。…荒れ野、蛇崩という土地に式神がいたんです。山伏の格好をした子供の式神です。主となった人間の気配は全くしませんでした」
「主の気配まで分かるのか?」
「は?何言ってんスか?我々式神は主の気配がわかるんです、無駄な争いを起こさないように…他には…魂を間違って奪われないように」
「あ、そうだったな!忘れてた、へへ」白々しく頬をかき笑う式神に、ジト目で疑うもあちらは話を進める。
「だったらさ、見に行こうぜ!その方が早いだろ!」
流れるように二人は蛇崩に向かうことになる。──昔から土砂災害の多い場所だった。計り知れぬ大蛇が滑り落ちてくるようだと、人間たちは恐れた。人ならざる者からしたら人々の言う大蛇はいなかった。はなから存在していなかった。
人界での出来事はあまり異界には影響しない。反対に、人間に障るのは一部の人ならざる者だけでお互い距離をとっている。
この荒れ野にはそれを守れない人ならざる者がいた、そう、いつだか聞いた事がある。
(──荒れ野はあっしらが住む町、越久夜町のハズレにあり、昔から人の手は入っていない原生地帯だ。まさに人の世界から外れた人ならざる者の領地。好き好んで人は足を運ばない)
ダム湖へと続く久夜川を越え、例の荒れ野に辿り着く。荒れ放題に茂った草むらを歩きながら二匹は山伏姿の式神を探していた。
「いないなぁ」
「そんなに縄張りは広くないみたいですね」
「二手に別れるかい?あたしは上空、童子さんは歩き回って探してくれよ」
「はあ…分かりました」
二手に別れよう、と提案され、しかたなく草原を歩き回っている。人ならざる者ならば必ずテリトリーを荒らされたと出てくるはずだと。
「しっかし歩きにくいッス。ベチャベチャしてて…」
ぴょん、とカエルが跳ねていくのを横目に童子式神は泥濘にハマりつつ進む。