披瀝 4
「あ〜あ、分岐がどんどん減ってくぜ」
手に絡みついた分岐をちぎり、山の女神はペッと血唾を吐いた。
「ねえ?春木。わたしを助けてくれなかったなんて、悪い冗談だよね?痛かったなあ、苦しかったなあ」
「あの子の真似をするな!」
「真似なんかじゃないよ、私たち一つになっちゃったんだよ?」
神世の巫女の口調で首を傾げる。
「私を助けるのは、"私"を受け入れること。ね?拒まないで?」
禍々しい笑顔の神世の巫女が分岐をちぎりながら、近づいてくる。
「春木。愛してる。ずっと言いたかった」
しなだれかかってきた神世の巫女に、女神は顔をしかめた。
「お前は天津甕星だっ!月世弥じゃない!」
真名を呼ばれ、神世の巫女はすぐさま天津甕星に変わる。
「なぁんだ、愛してるって言ってくれねえのかよ。春木ちゃん♡」
「けがらわしい、あの子がつけた名を呼ぶな!」
髪がゆらゆらと意志を持ち、婦人の首を絞め始めた。
「このまましんじゅーしてもいい、アンタが受け入れてくれるならな。」
「ふざけるんじゃない、誰がお前なんかと──ぐっ!」
「おめえにはもう、あの織女ちゃんはいないんだ。俺の能力を封じることはできねえ。」
首を髪でギリギリと締め付ける狂った星神に、為す術なく呻いた。
「──怖い?消えるのが?」
「は?」
「弱りきった私を痛めつけ、再起不能にしてまで自らの不安を取り除こうとしている。そうだろう」
「なんだ?んなわけねえだろ」
「そう」
舌打ちする天津甕星。女神の手が肩に押し付けられ、「私はあなたを拒絶する。」
退けられた。
グルル、と唸りをあげ、毛をザワザワとザワめかせ始めた。
「食われてえようだなァ。前代のよーに」
「意気地無し」
「うおら!」
髪を鋭い触手に変形させた彼は、それを女神に突き刺そうと伸ばす。心臓部に到達する手前で女神が手で触手を掴んだ。
「──尻尾を出したわね?」きつく力を込めると自らに突き刺した。
「私の威光を受け取りなさい」
「!はなせっ!」触手をしまおうとするが掴まれて阻まれる。
じわじわと急速に威光が彼に侵食する。初めて焦った表情になり、張り巡らされていた分岐が越久夜町の表層から消失した。
「銃剣でしか攻撃してこなかった訳が分かったわ。前回から学んだのね?あなたらしくない」
「毎度毎度支配しやがるとは、おめーらしいよ!」
彼女は光の槍を心臓部に突き刺した。天津甕星が大量の血を吐くも、髪の触手が鋭く山の女神の肩を貫く。
そのまま貫いた状態で泥まみれの地面に突き刺した。
地に縫い付けられた天津甕星がニヤリと笑うも、女神は血を垂らしながら槍を深く抉った。くんずほぐれつの戦いに終止符が打たれようとしていた。
「こんなもので俺を倒せると思うなよお!何度でも蘇ってやる!お前が好きな娘が転生する度になあ!」
「そう…なら一思いに葬ってあげる。──二度とこの地に現れぬようにな!」
「笑かしてくれるぜ!」揺らめいた最高神を蹴り飛ばし、立ち上がろうとする。
「ん?」グイッと体が起き上がれず、天津甕星はハッと目を見開いた。
「地球めが…!」