披瀝 3
「ふーん?そうか、そんなもんだよな。まあ、俺はな。だがなぁ、嬉しいよ。アンタと会えて」
「…それは、あの子の気持ちだろう」
無表情で答える山の女神は嫌悪感を隠しきれていない。
「いいや、違うね。待ち望んでいたよ、お前を食いつくす事を」
春木は手のひらから槍を形成する。最高神が使う神器だった。
「また俺を拒むの?」
「…」彼女は何も答えずに、次々に槍を形成すると投擲した。
「いや、遊んでくれるんだぁ!」
光を帯びた槍は鋭く音を立て、彼に向かった。天津甕星はそれを太虚へ逃げ込み再び越久夜町に現れる──いわゆるテレポーテーションで避けていく。
「あはは!久しぶりだぜっ!おめーと遊ぶのはよ!」
「逃げないでぶつかって来なさい。弱虫」
表情を崩さずに槍を放ち言い放った。
「ああ?」
ピタリ、と動きを止める。
「こんな棒きれ、わざわざ当たりに行くバカがいるか?」
簡単に槍を手で受け止めると、勢いよく女神に投げ返した。芝居だったのだ。
「あらそう。あたしなら、ぶつかりにいくわよ」
こちらも槍を手に取り、構えた。そして天津甕星へとびかかる。彼は銃剣を鞘から取り出し、体を横へずらした後槍を切断しようとした。
女神が腕を増やし、もう一本の槍を召喚して天津甕星に突き刺す。「がっ!」
「そんなので死なないでしょう?芝居をやめなさい」
「──ようくわかったなぁ」気色悪い笑顔を浮かべ、天津甕星は傷口から血を滴らせた。
瞬時に地面にテレポーテーションして、槍が刺さったまま四つん這いになる。
「遊びましょー!」地面を蹴るや再び姿が見えなくなった。
「ちょこまかと逃げ回って、度胸がないわね。」
「ばあ!」
突如洗われた天津甕星が銃剣を頬に切りつける。血が飛沫を上げ、彼の顔面に散った。
「あはは!おどろいたか?──ゲ!」いきなり腹を蹴られ、泥まみれの地面をスライディングする。
「いってえー」
カオスの泥にまみれて、天津甕星は大の字で寝転がる。
「じゃれあいはしまいにしよう。飽きたんだ」
「じゃれあい?」
「今度はあやとりしようぜ」
山の女神は静かに怒りを宿した瞳を細め、構える。
パチン、と芝居がかった仕草で指を鳴らすと、起動
音と共にたくさんの太虚にもあった奇妙なしめ縄が現れた。
「!」
「動くなよ?これはおめえが切って貼り付けた時空の分岐だ」
「く…」体にからみついたしめ縄に、山の女神は眉をひそめた。
「おや?あまり驚かねえんだ?さ、遊ぼう」
指に絡めると爪でちぎってみせる。ブチリ、と音を立てて縄がちぎれて分岐が消失した。
「俺ぁあやとりが苦手でね、こーやってちぎるのが好きなんだ」
「やめろ」
さらにたわませて、ちぎろうとする悪神に春木は怒号を浴びせた。
「やめろって言っているだろう!」
「うらあ!」
女神はパラレルワールドのしめ縄をちぎりながら、ふっとばされる。