山伏姿の式神 2
(──主さまの計画は、既に人ならざる者には知れ渡っている)
ある晩の事だった。童子式神を統べる主が、町にはられた「防御壁」を偵察して欲しいと頼み込んできた。それは町を囲むように貼り巡らされており、人間にはおろか魔にも可視できない。式神のお前が見て行って確かめて欲しい──と言われたが、荒れ野でつまずいてしまったのだ。
「防御壁を偵察して欲しい」
「防御壁…?なんスかそれ」
「知らないのか?」
それはこの町──越久夜町に張り巡らされているという。まるで透明な城塞のようだと彼はいう。人間おろか魔にも可視できない、神々の作りし防壁。
「式神のお前が見て行って確かめて欲しいんだ」
「魔でも見れないんじゃ…わたくしも」
「何を言う!お前が教えてくれたんだぞ」
「あっしが…?」
(おぼえてねえ…。あっしはどうやら記憶があいまいのようだ)
記憶など、人ならざる者にとってあまり重要視されていない。自我を持った者もあまりいない。
だが、なぜだか焦燥する。
「しかし主さま、何故蛇崩──荒れ野なのですか?越久夜町を囲ってあるのなら、どこでもよろしいのでは?」
「それが…夢で見たのだ。荒れ野の先に、大掛かりな祭壇があり…その先に壁のようなモノがある。女が大勢に囲まれて、壁に祈っていた。…馬鹿らしい夢だが、お前が言っていたものだとピンと来たんだ」
(──夢…人間が見るという…)
「夢、ですか…」
「そうだ。一応見てきてくれないか」
(──これは予想外だ。一旦引き返して、また違う方向から防御壁を探りに行かなければ)
童子式神は威嚇行動からコロッと笑顔に変わった。なるべく物腰の柔らかな声質を心がけながら、子供から離れていく。
「すまねえ。邪魔したっす。では、おいとまシマスので!」
「あっ!ちょっと…?!…」
物言いたげに手を伸ばすが彼女はひっこめ、戸惑っていた。
あれから少し経ち、邸宅の庭で童子式神は考えを巡らせながらもゴミ拾いをしていた。
──これまで蛇崩に式神がいたという話は聞いたことがない。式神は主となる人間に縛られるはずであり、場には縛られないのだから。
それに未確認の式神がいるはずがないのだ。町にいる式神の数は把握されている。
何に?
とてつもない、外側にいる何かに。
(あっしは人智を超えた者に遊ばれている。この星か、ルールを握る神か。式神という存在を作った何者かに)
(いつかあっしだって──)
「おう!いい朝だ!元気かい」
耳にタコな声がして悶々とした感情がぶつ切りにされた。
「はあ…来たな!ストーカー!」
「おいっストーカーじゃないって。あんたが暇そうにしてるからさ」
「暇ってもう午前三時ですよ…夜が明けちまうジャないですか。あっしにはテリトリーの掃除っていう任務があるんス」
「雑務じゃなくて?」
「あ゛?」
「まあ、いいじゃないか。で、なんで浮かない顔してたんだい?悩み事?」
「いや…実は荒れ野に…ハッ」慌てて口を塞ぎ、「なんでもねーよ」