光の視点 3
「火球?流れ星?」
「天の狐か、天をかける犬かもしれんぞ」
「あれがあんたなのか?」
「昔の人々はそう言っていたがね。俺が空を駆けたら、災いが訪れると怯えていたぜ。まあ、時空を走るなんざ今はしなくなったが」
「ええ〜!あたしもやってみたい!」
目を輝かせて巫女式神は言った。
「あんたも無明をさ迷いたいのか?変わり者だな。ほら、あんたの末路が降ってくるぞ」
流星群が地面に落ち、塵となり弾ける。線香花火の火花のように儚く星は消えてしまう。あれは何なのか?
こちらはそれを見て天の犬へ視線で訴えかける。
「時空の歪みが広がり続けている」
「歪み?ゆらぎじゃなくて?」
「それこそがゆらぎを生み出している原因だ。見ろ」
夜空に亀裂が走っており、そこからたくさんの流星が漏れている。向こう側から何かが漏れようとしている。
「そろそろお前の存在を間借りするのも終いになりそうだ」
そこらにあった流星を手にして、握りつぶす。弾けた光は断末魔を上げて巫女式神を照らした。末恐ろしい気がして悪寒が走る。
「帰るのかい?」
「ああ。この星も俺を煙たがってる」
「?」
「地球はおっかない奴でねえ。…この星に見つかったら帰らなきゃ行けないからなぁ、まだその時じゃなねえんだ」
「おまいさんって何でこの星に来たんだ?地球侵略?」
「この世界を存続させるためだ」
「えっ」
「この時空は崩壊し、大虚に横たわる残骸になるはずだった。だが何かが変わり、本来とは違う道を歩み始めた。それが何なのかは想像におまかせするがな」
腕を組み、不自然に輝く月を眺める。
「大虚って例の別天地かい?」
「ああ、根源の世界だ」
巫女式神は変哲のない地面を眺める。下にあるわけじゃねえよ、と天の犬はせせら笑った。
「鬼神は眠り続け、巫女も輪廻を回る。そんな世界もある。俺は約束されたのだよ」
「約束?」
「"この私が望むとおりハッピーエンドにして欲しい"、とかそんな甘ったれた約束だ」
「えっ。その人は誰なんだ?」
「教えても何の足しにもならん。このイカレた時空に望みを託した奴もいるのさ」
「ふうん」
「さ、進むのだろ。すべきことをしろ」
「待ってくれよ、最後にこれだけ教えてよっ」
手を合わせてお願いする。
「あんたの目的もそうだけど、越久夜町──」
「特異な分岐をしたこの時空を、創造神の宝物にする。そして贈呈する。歪な輝きを持つ、この光を。そのために幾多の分岐を誤った者たちの光が、時間になり、続かせなければならねえ」
落ちる星々に照らされ、彼は陰影を深めた。
「…。そうか、越久夜町は続くんだな。よかった」
巫女式神は複雑な気持ちで物事を飲み込もうとする。
「あんたがどう思おうが、この星は続いてくぜ。」
「うん」
釈然としない顔で頷き、やはり理解できないと表情を曇らせた。
「さ、休み時間は終わりだ」
「…ありがとう、少しだけ頭が冷やせた気がする」
「ああ」二人は消えかけた流星の転がる河原に立ち尽くした。




