光の視点 2
「真似事が好きだねぇ。魔の癖にね」
彼女は何も言わない。またジッとこちらを見つめ、何かを言おうとしている。
「…結局願いを叶えられませんでした」
その言葉に巫女式神は、自分に話しかけられていないのを悟る。
「あたしは巫女式神、だろ?」
再び見やると童子式神は髪を解いた状態でさらに疲労している様に見えた。わずかに笑い、人ならざる者は言う。
「いいえ。あっしは…これまで貰ってばかりで何もくれてやれなかった」
「…おい!」
童子式神はフワッと光のモヤになって消える。たくさんあった星々がパッと消失し、巫女式神は何も無い闇の中で立ち尽くす。
「なんだよ…意地悪だなっ!あんたは…この星は!」
無に向かって叫ぶと無が蠢いた。地鳴りに似た揺れに巫女姿の子供は驚く。頭上から星屑が降ってきて、空から振り落とされる。
叩きつけられ、地面に転がり、寝転がっていると──黄昏ていた巫女式神を、冷静が見つける。
希望が揺らいだ、絶望しかけた。じっと空を見上げている。
冷静は表情を変えず隣に来る。覗き込み、二人は見つめ合う。
「お前が星に近づけるわけない。触れることもな」
ふん。 悪態をつく。
「意地悪か?地球は?」
「意地悪だ。あたしにまやかしを見せつけて振り落とすぐらいには」
鼻に皺を寄せ、巫女式神は吐き捨てた。
「からかわれただけだ。この星は、お前みたいな奴の反応を見て楽しむ」
「最低だな」
「地球に居るということは、そんなもの。物好きどもの巣窟だ」
鬼神の眷属は起き上がり、衣服についた土埃を払う。
「で、過去に囚われるか?童子式神ってやつのまやかしに話しかけ続けるつもりか?」
「…。どうだろうねえ」
天の犬は顔色を変えず、視線をそらし月を眺める。
「それでもいい。誰も、お前を止める者はいないのだからな」
「うん…」いつの間にか犬人間に変幻している彼が問うてきた。
「お前の目標はどうなる?神格を得たいんだろう?」
「あたしは…。それは…あたしのアルジさまが叶えたがっている願いだ」
「そうか」
「生きていい証明なんだ。あたしが生まれた理由なんだよ、天の犬」
「神格をえるのか」
「いや、どうせこの世に生まれたんならさ。自分のやりたいことやってもいいよな?味方は自分しかいないのに」
冷静は何も言わない。「天の犬?」
「どうする?"巫女式神"?」
彼に問われ、巫女式神は意表を突かれる。しばし黙り、そしてニヤリといつもの様に笑った。
「諦めないよ、あたしは前に進む」
アルバエナワラ エベルムは顎に手を当てると、目を細めた。
「そうか。なおも前に進めるのか」
「ああ。毒を食らわば皿まで、だ。突き進める所まで、突き進むさ」
「それでこそ"巫女式神"か?面白いな」
「人を面白がるなよ」周囲を把握しながらもムッとする。河原にいる事に気がついた巫女式神は、自らの乱れた髪をなでつけた。
川面に星空が映り込み、周囲は虫の音につつまれている。
キラリ、と空に流れ星が走った。