山伏姿の式神
──佇む寡黙が、厄介な人ならざる者にあたったな、と呟いた。暗闇に浮かび上がる彼の顔には表情らしきものはない。
「えっ、あのエセ山伏が?」
「ふむ…。そやつは山伏ではないがの。人間どもが荒れ野を開拓しなかった原因じゃ。荒れ野に巣食う暴食魔神。この土地に住まう人ならざる者らはそう呼んでいた」
「知らなかったっス…」二人は見つめ合い、窓枠の影が廊下にさす。そこに彼らの影はない。
夜空に半月が浮かんでいる。偽物めいた、窓から覗く月が不気味な輝きを放つ。赤いような、濁った月の色にカラスが眩さに鳴く。
相も変わらず嘘くさい半月がほのかに照らした、さわさわとそよぐ草原を童子式神は歩いていた。蛇崩と呼ばれる荒れ野だった。
越久夜町の、人ならざる者も近寄らない死地。
「うぎゃっ?!」
いきなり足に激痛が走り、罠にかかったと自覚した。魔のイタズラか、それとも呪術師のか…怒りに顔を顰めていると草薮から子供が現れた。
女児に似たその人ならざる者はあろう事か、奇妙な山伏装束を身にまとい、手には蔦を握りしめている。
「本当にいた!」
「式神?!」
嗅ぎなれない匂いに驚愕する。この町に、自分以外に式神などいるとは思わなかった。
「あなたが他人のテリトリーを荒らしてる式神ね!」
「あっしらを知ってるとは、主さまの関係者っスか」
険しい顔をしてねめつけた。唇から牙が覗き、人ならざる者の眼光がきらめいた。
「ち、違うっ!噂になっているのよ、あなたのことが!」
「噂?」
「そうよ、魔どもが言ってるのを聞いたの!」
「…」意味深な表情をこちらに、子供は息を飲んだ。