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行方

「巫覡がなんの用じゃ…!」

「倭文神。君の無惨な結末を、私は回避してあげようとしてあげているんだぞ?感謝したまえ」

「ええ。今なら流罪や謹慎が課されるだけよ。今までのあなたの行いに免じてね」

 山の女神が能面のような顔で言う。

「一思いに殺ればいいものよ。その半端さ…後に痛い目に遭うぞ」

「反逆したあなたに発言権はないわ」

 サラリと言いのけてみせるや、妙齢の婦人は怯える童子式神を一瞥する。


「無様ね。あなたに用があるの」

「あっしは」

「私はある者を探している。きっとあなたはその者に会っているはずよ。情報交換をしましょう?…対価としてあなたには悪神の真名を告げてあげる」

「えっ」

「いいでしょう?」

 多大な霊気に圧倒され、式神だった者はコクリと頷いた。悪神が何者だったのかを告げられる。


「神威ある偉大な星──天津甕星。またはラア・ライオアドー。それがかの悪神の真名」

「それが悪神の名ですか」

「他人事なのね」

「ええ。でも…天津甕星について、教えてくだせえ。それも情報交換の内に入りますか?」


「そう。わかったわ。──彼は前代の最高神によって勧請された星の神だった。神力も野心も強い厄介者だと神々は恐れていたけれど、前代とは仲が良かったらしいわ。とんだ置き土産よ」

「…」あんまりな言い方だ。

「私とは馬が合わなくて、結局争いになってしまった。彼は負け、私は勝った。それだけ」

「ええ…分かりました」

「あなたはには苦い思いをさせられたけれど、それも過去の産物。どうでもいいわ」


(腐りやがって)


 童子式神は山の女神の言葉に軽い不快感を示した。しかし女神はそれよりも巫女の事について知りたがっているようだ。

「本題に入りたいのだけれど、いいかしら?美しい髪の、浮世離れした女性を知らない?あの子が町にいると言うのを有屋から聞いたの。天津甕星、あなたにも接触しているはずよ」

「あっしは」


(アマツミカボシという神ではなく、その──)


 煤けた高校生の制服をまとった少女が蘇る。


(彼女は巫女、なんだろうか?)


「アレは巫女ではない。巫女の皮を被り、欺いている天津甕星じゃ。女神さま、この者こそが」

「お黙り。お仕置を追加されたいの?」

 山の女神が真相を告げようとする寡黙の言い分を跳ね除ける。童子式神は目配せをした。


「神世の時代にいたという巫女を、あっしは見たような気がします。女神に会いたいと言っていました」

「そう…」悲しい表情をする山の女神。「覚えてくれていたのね」

「…食べてあげる、とも言っていました」


 その言葉に突如として拒絶反応を起こし、怒りを露わにする。

「嘘おっしゃい。あの子はそんなことを言うはずがない!」

「本当です」

「皆揃って私をバカにするのね」

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