捕食寄生 4
童子式神は自分の身に何も起こらず、呆気ないと自嘲した。
(後一歩で何者かになれるのに。その後一歩に届かない。やはり自分が何者であるかを思い出せない限り、式神システムからは逃げられないのか?)
巫女式神と訪れた山の開けた場所で、座り込んでいた。
何時間も体育座りの状態で、ぼんやりしていた。巫女式神が脳裏に浮かぶ。
(ヤツは罵るだろうか?それとも興ざめするだろうか?さあ)
「そんな所にいて、其方はどうするつもりじゃ?」
どこからか想像上の寡黙が湧いてきて、こちらに話しかけてきた。彼には足がなく、鈴もない。それに同じ髪飾りをしている。
──幻だ。
「あっしは幻までもおめえに答えを求めるとは。呆れます」
「其方は今まで吾輩に思考を委ねてきた」
「ええ。アイツはあっしが考えないように、しつこく遮ってきましたから」
「そうじゃろうな」頷いて目の前にくる。ゆらめいている寡黙を見上げた。
「寡黙。あっしはどこへ向かえば良いのでしょう?」
「主はもういないのだぞ」
「主…」
「なら、おめえが命令してください。服従を誓います」
「もう其方は式神ではないのだぞ」
静かに嗜められて、童子式神は俯いた。
「自らが決めるのじゃ。これからは、何千の時を自らで」
「嫌です!何も考えたくない!」目を覆い、さらにうづくまる。
(式神で終わらせなかった主さまからの呪いなんだろうか?人間は自ら物事を考え、分岐する未来を…苦しい。苦しい!呪われたんだ)
「主を恨むか」
イマジナリーの寡黙はジッとこちらをねめつけている。
「いや、いいえ、あの人間は、理想的な言葉しか言いませんでしたがあっしを導いてくれましたから」
「人間の言う言葉などたかが知れている。良くて100年しか生きない"短命"な生命体がこの世の何を知れようか。あのガキは、いつまでも現実など見や出来なかった」
「あっしは、そんな風に思っていたのですね」
(ああ、あっしは──人間を見下していた)
「主さま…」
目をつぶり、取り込んだ主の魂を感じようとする。「え?」
手に入れた彼の魂がほぼ空っぽなことに驚く。
「空っぽだ…」
(じゃあ、中身はどこへ?)