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収斂 3

 武器を構え興奮する群衆に囲まれ、巫女は神器である銃剣を握り宣言する。

「あなた達はもう、神々の加護、神託を受けることはできないでしょう。人々と神々の時代は終わったのです」

 まつろわぬ神が携えていた銃剣をきつく握り、心臓に勢いよく突き刺した。

 巫女はがっくりと前のめりになり、怨念の籠った眼で村の民へ強い眼差しを向ける。

 憎悪。悲しみ。憤怒。


 そうだ。()を、アイツらは拒絶したのだ。──山の神。何故、俺を拒絶したのか。

 神世の巫女は悪神に成り代わり、憎悪と邪視で、こちらを睨む。


「なあ」

 鋭い歯を覗かせた口が言う。その口には肉片がこびりついていた。

 前代の最高神の亡骸を食い破る天津甕星がいた。女性だった神霊の頭はなく、首の断面から大量の穢れた体液が吹き出している。心臓部がえぐれており、食い殺した彼が愛おしそうに抱き抱えていた。

 童子式神はその景色に喉がヒュッと鳴った。


(あれが、神威ある偉大な星)


「"お前"も拒絶するのかぁ?」

 神官が着る衣服を纏い、髪を垂らした子供は怯える。

「い、嫌だ!あっしは!」

「ソうぅなのかあ。おめえも、この俺を──」

 バケモノの避けた顔がさらに変じて行く。腐敗して壊死していく顔面から、数多の触手が飛び出した。


「あっしはあんなヤツじゃないっ!」

 背を向けて、意を決して走り出した。だが覚束無い足取りは奴から遠ざかれない。

「その空っぽで純潔な魂、食らってやろうぞ。──神世の巫女!」

「ハァハァ…!」ぬかるむ足元にとられ、べちゃりとこける。泥沼のような暗闇にズブズブと沈んでいく体。ああ、もうダメだ。


「神威ある偉大な星」

 声がしてハッと顔を上げると、太古の、大陸の民族衣装を着た人物がいた。

「眩いばかりの輝き、畏怖を抱くお姿。何事にも屈することのない意思。己に従い貫く正義。太陽にも負けぬ明星のように、他の神々とは異なっていた。…私はその輝く神を崇拝していたのだ。民に言葉を伝え、どんなに素晴らしいか…」

 熱弁している人間がいる。あれは異国の巫覡。お互い仲は最悪だったが考えている事は一緒だった。

「アイツはそんなヤツじゃない──」

 迫ってくる邪神に童子式神は吐き捨てる。



「神世の巫女かみよのみこかみよのみこお前に成り代わってやる」




(食われる!)


 ──ムラをどうするつもり?女神を殺めても前代の最高神にしたことの焼き回しにしかならないわ。

 大人の姿をした巫女──ツクヨミが言った。


 ──神威ある偉大な星。あなたを鎮めなくてはならない。


「終わらせなければ」

 彼女の手が式神を奮い立たせる。カオスに変貌していた空間が崩れた異質な、しめ縄の連なる大虚に変わっていた。


「おめえは、神世の巫女」

「わたしはあなた。もう終わりにしましょう。神威ある偉大な星の稚拙な願望も、わたしの未練も」

「えっ」

「大丈夫。この時空ならできる」

 童子式神は絶望した相貌で立ち尽くす。

「そんな…あっしの未来は?あっしは、続かないの?」

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