収斂 2
「ここで滅べ!天津甕星!町のためにっ!」
童子式神は融解し、剣と共に再構築される。どういう訳か元の状態に戻った童子式神も昏倒したまま、ぐったりと地面に伏してしてしまった。
「あ、ああ…童子さん!童子さん!」
そんなはずじゃなかったと駆け寄り、揺さぶった。返事もなく、青白い顔は死人のようであった。
「騙したな!」
怒りを爆発させ護法童子に詰め寄るも、あろう事か再びトドメを刺そうとする。
「倭文神っ!これがお前のバツだ!」
その一声に、怒った寡黙が瞬時に現れ、布で退魔の人ならざる者を束縛した。
ギリギリとネーハを苦しめ、牙をむきだした。
「護法童子の分際で」
童子式神を元の依り代──髪飾りの状態へ戻し、手の内に収めるとおぞましい顔つきで睥睨した。
「…其方、何をしたか分かっているのか」
「私は正義を実行しただけだ」
「消し去ってやろうか」
「童子さんはどうなっちゃったんだよ?!」
二人の間に巫女式神が乱入する。泣きそうな顔をする部外者に、寡黙は憎悪にまみれた表情を少し戻した。
「再発生するまでに時間がかかる」
「ネーハ!なんでっ!嘘つき!」
殴りかかろうとしたが、同じ背格好をした者に止められてしまう。泣きじゃくりながらも下がり、へたりこんだ。
「吾輩が始末する。邪魔をするな」
「殺ればいいさ!私に悔いはないぞ!」
「倭文神。そこら辺にしなさい。使役者の有屋 鳥子が命じる」
庭の角から有屋がしゃなりと現れ、ネーハの横に立つ。
「女神に反逆した罪で町から追放されたくなければ、ネーハを解放しなさい」
「吾輩が反逆した?笑かすな」
「越久夜町の神々の間であなたの素行が怪しいと、これ以上目立った問題を起こすのならば処置が必要という話にまとまってきているわ」
「…姑息な。どうせ其方が操作したのじゃろう」
「ええ。あなたが女神に逆らう素振りを見せたからいけないのよ。くわえて…お飾りのあなたを良く思っていない神もいるのは確かよ」
「…!」
「ならばネーハを解放しなさい」
「…腐り果てておるわ」
苦汁の決断に、倭文神は身を固くした。呪詛にも似た言葉で有屋を罵る。
「なんとでも言いなさいな」
布での束縛を解くと、ネーハは軽々と地面に着地した。
「さあ、行きましょう。剣を回収して」
「は、はい!」
彼が忙しく剣を拾っている間に妙齢の女性は去っていく。
「なんで解放したんだよっ?あんなヤツに従うなんてっ!どうしてだよ!」
巫女式神は倭文神の胸ぐらを掴み、怒鳴り散らした。
「"大人"にはこのようなことが起きる…特に閉鎖された田舎ではな。そなたの生まれた場とは、そんなものじゃ。若造よ」
「…嫌だよ」大粒の涙を流さぬように、食いしばった。
「髪飾りを清めなければ。アヤツの魂が再発生するのが百年もの年月がかかってしまうじゃろうな」
「えっ!童子さん死んだんじゃないのか?!」
「吾輩の話を聞いていたのか?式神は早々死なぬ。だがあの依り代で魂が再構築された可能性はある。死はしないが…」
「な、なんとかしてくれよっ!」
「其方は何故そこまでアヤツに固執するのじゃ」
「童子さんはアタシの大切な友達なんだっ!」
必死な形相の眷属に"寡黙"は理解できないとフリーズした。
「そなたは人ならざる者らしくない」




