零落した使わしめ 9
唾を飛ばしながら空を見つめる。体をジタバタさせながらも必死に、重圧をかける椅子から逃れようとした。ミシミシと骨が軋み、ねじ曲がる。痛覚を無視した行為に、その瞬間、眼球が火に当てられた蝋のように溶けだしていく。
「えっ」
ズクズクと体が溶けて、灰になっていく体をなおも動かし彼は何かを見据えた。
「生きていたのだな、オマエ…」
最終的に骨までも塵になり、ついには砂の山になってしまった。
「何が起きたんすか?」
「…さあ、分からぬ」それを見守っていた寡黙が表情をひとつも動かさずに、小さく言った。どことなく感情を含んだ声色に心がざわめいた。
「またいつもみてえに、消えたんすか…」
人ならざる者は死ぬというより、何度もその場に再生される。人が残す残留した思念にも似ている。その場に縛られ、何度も同じ行動をする。
式神は例外か。否、主に取り憑く悪魔の残像か。
「そうかもしれぬな」
ウサギ形態のまま、陰鬱とした顔で俯く童子式神をソッと椅子に下ろした。
「神性を失った神が自壊するのは定めなのじゃ、…そちは、自らが式神であることに感謝する他ない」
「…笑かさないでください」
彼は椅子から降りると、フッと吐息を零した。すると灰が舞い、淡く消えていく。何が起きたのか未だに不明だが、あの山犬は誰かと再会したのだろう。
良かったのかもしれない。
「寡黙」人になるや、去ろうとする寡黙に声をかけた。
「話しかけるな。吾輩とて、平生ではいられぬ」
振り返りざまにそういうと彼は歩いていった。
「あいつも…神だったんでしょうか?」
これにて「零落した使わしめ」は完結しました。
ありがとうございました。
文字数をまとめるが苦手で、短めになってしまい申し訳ないです。