収斂
ネーハ・プラカーシュは歓喜と達成感に突き動かされ走っていた。やっと事が進んだのだ。剣を片手に、地主神の神社へ突進した。
巫女式神が鳥居の下の階段で座っているのを見つける。誰かと話していたのか?
「じゃあ」と境内へ向かって言う。誰もいない境内にネーハは訝しがった。
「ん。ネーハ、どうしたんだ?」
こちらに気づき、無邪気に手を振った。誰もいなかったはずなのに、得体の知れない嫌な気配が残っている。
「君に言いたいことがあるんだよ」
しかし一転、彼女はため息をついて、わざとらしく肩を竦め、お手上げのジェスチャーをする。
「巫女式神!聞いてくれっ」
「またかい?しつこいなぁ〜」
苛立ちを露わにし、取り合わないとしようとする巫女式神に護法童子は詰め寄り、深呼吸をする。
「君曰く童子式神…だっけ?彼がかつて分霊だった頃の象徴を手に入れたんだ」
「え!本当か?!すごいじゃないか!」
嫌悪から顔色を変え、眷属は明るくなった。ネーハは自慢げに錆び付いた銃剣を布から抜くと、眼前の偽の式神に見せつける。
「へー。洒落た本体じゃないか。剣か何か?」
「銃剣ではないかな?神々は地球の文明を保存し、模倣することがある」
「すごい昔なのに、不思議だな」
巫女式神はつんつんと銃剣をつつき、興味津々だ。
「古代核戦争説があるように、地球にはいくつか文明が誕生し滅んだのかもしれない。──それは今どうでもいい話だ」
「これで、アイツは戻れるのかい?」
「ああ」
渡すと、巫女式神は銃剣を手にじっと刃に魅入る。
「ああ、きっと。巫女式神、これを彼に渡すんだ」
「負けたんだな、あたしは」
そうポツリと呟き、感慨深い顔をした。
「負けた?」
「うん。競争してたんだ。どっちが先に何者になれるか。でも嬉しいよ、アイツの願いは叶えられるんだ」
「…君は」言いかけて、ネーハは押し黙る。言うべきでは無かった。
「さ、早く渡しに行こうぜ。」
星守一族の邸宅まで来ると、彼らは庭を訪れた。ネーハは「邪魔しちゃあ悪いから隠れてるよ」といい、どっかに言ってしまい、途方に暮れる。
「まあ、流れ的に童子さんに見せりゃ喜ぶよな」
いつも掃除をしている彼女の姿はない。
「童子式神ー!」
大声で叫ぶと、つかさず縄張りから童子式神が呆れ顔で出現した。
「なんスか…うるさいですよ!」
巫女式神は駆け寄ると、剣を後ろに隠した。見え見えである。
「おまいさんに見せたいものがあるんだ!すごくびっくりすると思うよ!」
「はあ…夜が空けそうなのに?それと、その武器はなんですか?」
「童子さんが神に戻れるかもしれないんだっ」
一瞬驚き、固まったがやれやれと脱力した。
「…。ジョークか何かッスか?」
「ちがうやい!見てくれよ」
隠していた銃剣を見せびらかし、錆び付いた刃を童子式神に突きつけた。
「この町にいる悪神の、御神体──本体と言われてる剣なんだ。それが見つかったんだよ!」
「こ、これが…?」
ゆっくりと震える手で式神は刃先に触れようとする。
「ですが──」
「しめたっ!」
「え」
生垣の物陰から奇襲してきたネーハに剣をひったくられ、巫女式神は固まった。何が起きたのかも理解できずに、護法童子が力を込めて童子式神へ突き刺したのを目の当たりにする。
「がっ!」
童子式神の胸が剣に貫かれる。
「な、なんで」
血を吐いて鬼神の眷属をみやる。巫女式神と目があい、お互い驚愕で固まっていた。なぜ、裏切ったのか、と。
「悪神めがっ!」
「…ネーハ?!何するんだよ!」