表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/166

山の女神の裁きと宿命 3

 童子式神は柏手を打ち縄張りの門口を召喚した。それは子供が入れる程の小さな穴だった。

 穴に身をかがめて入っていく二人。寡黙が作りあげた椅子だらけの空間に、四方を注連縄で囲んだ物があった。揺らぎを固めた暗黒の勾玉がその中に浮かんでいる。


(なんだこりゃ?!)


「こ、こんなの知りませんでした」

「お前がやったのではないのか?」となんの気なしに勾玉を手に取った。「まぁいい」

 言うや否や、そのまま口にポイッと放り込んでしまった。あまりの突拍子のない童子式神は一驚する。


「主さまっ?!」

 本来人間が摂取できぬ()()()を体に宿したせいか、少し呻いき苦しんだが──彼は耐え抜いた。

「わ!」

 連動するように式神の体にエネルギーが満ちる。


(マイナスのエネルギーが…!)


「何も無くなった人間の恐ろしさを知るがいいさ」





 あれから少し経ち、越久夜間山(おくやまさん)にたどり着いた。越久夜間山の登山口までくると、頭蓋骨が僅かに柔らかい燐光を発する。

 すると道に太古の形をした鳥居が空中に浮かび上がり、ゲートのようなモノが開いた。ぽっかりと口を開けた真ん中から埃臭いような、淀んだ空気が漂ってくる。

 二人はそのただならぬ空気に身構えた。向こう側には山伏姿の式神と訪れたあの階段がある。

 ──神域の起点に続いているのか。


(最高神はマイナスの気を持つ神だったのか?)


「これは考えつかなかったな」

 トントン拍子に進む物事に苦笑すると、一歩踏み出した。

「く、潜るのですか…?」

「ああ、行こう」

 ゲートを潜り、彼は延々と続くような苔むした階段を登り始めた。

「嫌な予感しかしねーッス…」


(山の女神が邪気にまみれた神だったら、あっしらは打つ手が無くなる。けど、記憶では…)


 緊張しながらも緊張して見守り、童子式神はついて行った。だが、そう簡単には行かない。

「はあはあ…たどり着かねえ!」

 なかなか頂上へとたどり着かないのだ。

「もうやめましょうよ」

「少し休もう」息を切らした主は力尽き、進めなくなり、仕方なく階段に腰を下ろした。

 二人はしばし黙り、やがて人間側が口を開いた。

「山の神と思われる神が、夢に出てきたことがある」

「えっ」童子式神は素直に驚いた。


(寡黙、いや、倭文神が見せてくれた神世の巫女の記憶が…主さまにもある?)


「オレは始祖の魂を持っているのかもしれない」

「あ…その」


(どういう状態なんだ?あっしも、そうじゃないのか?)


「オレの夢に現れた女神は光に満ち溢れていた、美しい神だ。きっと世界をその光で照らしつくすような…こんな存在でも生きていいと思えるほどに」

「この瘴気では…主さまのいう女神とは異なるのかもしれないですね」

 世界をその光で照らしつくすような、そんな完璧な神様がいるのなら、今頃世界は不変に過ごしているのだろう。

「越久夜町はもう終いになるのかもな」

「主さまは、町を再生するのでしょう?」

「ハハ…」力なく笑うと、それ以上何も言わなくなってしまった。まずいな、と口を閉ざし、童子式神も黙りこくった。

「しばらくしたら登りだそう」




 ついにゴールが見え、足を止める。階段の最上階の所に人影があったからだ。

 やんわりとした光がその人々を照らし、後光のようになっている。二人の影がこちらを見下ろしており、目を凝らした。

「シナリオ通り、オレは終わりということか」


 越久夜町を統べる山の女神だった。彼女はこちらの動向を見透かして、ずっと階段の上で待ち構えていたのである。

 腕を組み、こちらを冷徹に見下ろしている。童子式神は脂汗を垂らし、「あれが山の神…」と呟いた。


 山の女神。わたしの太陽。

 逆光になっている山の女神に恐る恐る視線を合わせる。

 ──娘や。お前は月のようだね。 山の女神が言う。


(あれが山の女神。記憶とは全くの別人だ)


 ──あんなに疲れきって…私の太陽よ。これ以上苦しまないで。

 己の中の、神世の巫女が嘆き悲しむ。この巫女の気持ちは幻覚かもしれない。胸に手を当てて、衣服を握りしめた。


(町を終わらせなければこの苦しみは終わらない)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ