零落した使わしめ 8
「う、うん」
ザブザブと冷たい湧水に毛皮をいれ、丁寧に洗っていく。人ならざる者が洗濯をするという滑稽な展開に飽きれながらも、無心に砂利や泥、ケガレを洗っていった。水にどんよりとしたケガレが充満するも徐々にそれも澄んでいく。
不思議な、清冽な泉だ。
「わ、綺麗になってきたよっ」
斑に汚れていた毛皮が純真な白さを取り戻していくにつれ、毛艶が神聖なる輝きを放っていく。キラキラと蔓延る暗闇を押しのけ、森の生命たちは清らかな灯りをともしていった。
蛍の飛び交う美しい原生林。これがこの森の、本来の姿なのか。
「なっ、何が起こってんのさ!」
「改変前の原始の、清らかな状態に戻っていっているんだ」声の主は顎に手を添え、目を細める。
毛皮が一層輝きを増すと、光のモヤが放出された。それは山犬の姿をとり、穏やかに頭をたれた。
「わたくしを助けて下さりありがとう」
「え、あ、ああ」
「町のゆらぎに耐えられずに信仰心も薄れ、わたくしたちは潰えてしまいましたの」
「だから毛皮になってしまったんだね?」まばゆさに顔をしかめながらも、彼女は問いかけた。
「いいえ。わたくしの毛皮を片割れの彼にあげたのです。そうすれば僅かでもケガレから身を守れる。けれども、それも限界がありました」
「ああ…」
「彼は魂を融解させ、壊れてしまいました。わたくしは何も出来ず…辛い思いをさせてしまいましたわ」
美麗な山犬は再び感謝すると、「もう一度礼を言います。ありがとう、未知数なる金烏。あなたはこの町を太陽の威光で照らすでしょう」
「う、うん。よかったよっ!」
ニカッと笑顔をうかべた巫女式神に、白狼は静かに微笑んだ。
「彼を迎えにいきます」
「気をつけて。幸あらんことを」冷静が口を借りていった。
寡黙と呼び、片割れだと思っていた人物の力量は凄まじいものだった。眷属神と言われた獣を弾き、無限に出現する椅子でズタズタにする。あまりの力の差に、童子式神は恐怖した。
そろそろ決着がつきそうな雰囲気になった時、鉄パイプの下敷きになった山犬が耳をぴんと立てた。