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呪縛 2

 ──またもう一柱、倭文神が祀られているのですよ。

 ウサギの神使が言っていた言葉を思い出す。

「おめえが、この祠に祀られている神…」


 妙見菩薩の社の前で寡黙はポツリという。

「…吾輩はこの地に縛られている。…何千年も、いや、永遠に-かもしれぬ。お飾りとして、真の役割を果たせずにのう」

「…この社に祀られている他の神も関係あるんスか?もしかしたらあっしと関係あるんじゃ──」

「…もし、そなたが全てを知った時。そなたは怒り、吾輩へ憎悪を向けるだろう」

「それはどういう」

「過去に囚われている方がお互い楽かもしれぬ。……などとも、思うようになった。このままではこの土地で消失する。それでも、良いのかもしれぬ」

「おめえも前に進むのが怖いのですか?」

「前に進むというよりは、変わるのが怖いのじゃ。自らが予測していた事柄に翻弄される…吾輩には耐えられぬ」


 虚ろな目をしたまま、祠を見つめる。

「…おぬしを支配していたつもりじゃった。これは罰なのであろうな。他人を思い通りにはできぬのに」

「そ、そこまで思いつめなくても」

「吾輩のしたことは許されぬこと。なのに、縛られてはいたくないのじゃ。ちぐはぐであろう?」

「ま、まあ、神でなく魔なら、人間ならばごく普通の状態なのでしょうが…」

「吾輩は人間ではない。感情などに振り回される者ではなかった。覆水盆に返らず、というのじゃろう。神性は戻ってはこぬ」

「…ええ」

「そちが自らの課された命の対象でない…とすれば、そちを縛り付ける理由はなくなった。…何が望みじゃ?吾輩を煮るなり焼くなりなんでもするがよい」


「思い出したい」

 強い意志で、口調で、童子式神は言う。

「あっしが何者だったのかを、知りたい」


「そうか…」

 観念した様子で寡黙は静かに口を開いた。

「神と人を結ぶ者よ。自由になるのだ」

「自由に──」


 ソッと彼の指が額に触れ、寡黙の瞳の色が揺らぐ。赤色から黄緑色へと。

 そのまま指が額を貫通し脳をいじり、ブチブチと糸をちぎるような音がした。童子式神のスイッチが切れ、ぐったりと地面にへたりこむ。寡黙は頭から手を離し、見下ろした。


「…馬鹿だな。がんじがらめにしておいて、いまさら」

 泣きそうな、織女の少女の顔で呟いた。




 プツリと意識が切れた瞬間に、童子式神は気がつくと暗闇にいた。大きなしめ縄の連なる空間で立ち尽くしていた。

「あれ…」

 薄く光るしめ縄が解けて融解しかけている。あれは今置かれている状況だと悟った。


(あのしめ縄が崩れてしまえば町は終わる)


(いいじゃないか、どうなったって。それがどうしたんだ?)


 式神はしめ縄に歩み寄ると、ちぎれている光の束に触れた。

 途端に、脳裏に神世の巫女の影が通り過ぎる。数多の情報が一斉に入り込んでくる。越久夜町の月を食べたのは、悪神の天津甕星だった。だから、月が動かない。でも──時空を食べたのは誰?

 式神システムを創造したのは月世弥であり、女神を恨んでいる事。魔筋に彼女が眠っている事。──目眩がして童子式神は瞬いた。


 瞬きをするや否や、見知らぬ男性が暗闇を歩いている。

「お互い仲は最悪だったが考えている事は一緒だった。月世弥。私は」


(ああ、あの鬼神のモノか)


 無条件に納得した。

「神世の巫女」

「神々の声を聞く空っぽな者」

 空っぽだったから、山の女神を受け入れられたのだ。

 場面が変わり、かの女神が目の前に現れた。しかしぐらりと足元が崩れ、無数の手が奈落の底に引きずり込んでくる。生贄にされた巫女は嫌だ、と叫び、奈落へ落ちていく。


(──思い出せ)


(あっしは、何者でもない事を)

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