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アナタはだあれ?

 ネーハは改めて、夜更け過ぎにツクヨミという巫女が埋葬された墳墓へ訪れた。さわさわとススキが揺れ、寂しくざわめく。秋空の下、柔らかい月の明かりが彼を照らした。


(悪神の本体なぞ見つけられるのか?私は、そんな嗅覚は持っていないのに)


 鄙びた風が吹く蛇崩に埋もれる墳墓へ歩み寄ると、そこには人影があり、ビクリと足を止めた。

「こんにちは!あなたはだあれ?」


「…人間ではないな?」

「そうみたい。あなたはこのお墓になんの用?」

「探し物をしているんだ」

 警戒しながらも護法童子は答え、一歩後退する。しかし少女は白々しい笑顔のまま止まっている。

 まるで笑顔を張りつけた人形みたいに。

「このお墓には、わたしの物は何も残されてないみたいなの」

 彼女はなんでもない事のようにネーハへ言う。風に吹かれ、黒く美しい髪がなびく。彼はただならぬ気配を感じとり身を固くした。

「だから探しても見つからないと思うよ」


「貴様は…」

「ムラで神々の憑坐(よりまし)をしていた者かな。今は月夜見って名前をもらったんだあ」

「…まさか、神話の?」

「うん、神話だなんて変なのぉ〜」

 想定外の出来事に戸惑うこちらに、可笑しそうに笑う月夜見は一歩踏み出した。

「何故蘇ったのだ?何が望みだ?!」

「なんで?なんでだろうね?あなたは知ってる?」

「有屋さまに言わなければ──!」

 慌てて荒れ野を後にしたネーハに"ツクヨミ"はキョトンとする。「アリヤ?誰それ?」

「行っちゃったなあ。友達になれると思ったのに」

 残念そうにする少女に影から、山伏式神が肩をすくめる。


(護法童子に知られたら先は短いわね。でも、どうなるのかしら?あのバケモノじみたヤツが出てきたら…あー!早く投げ出して逃げたいわ!)


「しきがみさんはあの子知ってる?」

「ええ。ここら辺をうろちょろしてる小バエよ」

「へー」興味なさげに相槌をうつと、空を仰いだ。

「わたしもちょっと見に行きたい場所があるの」

「えっ?」




 二匹は蛇崩から夜の住宅地を歩く。異界の精霊たちが月夜見を見て、慌てて逃げ惑う。お構い無しに進む少女を、山伏姿の式神もどきは呆れつつもついていく。

 やがて星守邸宅の正門の前で立ち止まると、柵を登り始めた。

「よいしょっと」

「これ、人間の家じゃない。あなた、ここを知っているの?」

 山伏式神が慌てて、問いただすも返事は無い。見知った景色なのか星守邸の庭ズカズカと土足で割って入って行くと、迷いなく小さな祠を見つけた。

「…」彼女の目付きが代わり、そっと祠に近づいていく。


 朽ち果てた祠の扉を開けるとボロボロになった頭蓋骨があった。「わたしだ……」

「え?あなた?」

「わたしは」


「オヌシら、何をしに来た?」

 忽然と現れた寡黙が、二匹と対峙する。怒りを含ませた赤い瞳に、彼女たちが映り込む。


「…!童子?!」

 山伏式神は振り返り警戒する。外見は童子式神の筈だが、気配も喋り方も異なるのだ。

「吾輩は童子式神とやらではない」


(この違和感はなんじゃ?)


 彼の恐れに気づいた月夜見が邪悪に笑った。

「あー、あなた倭文神だあ。なつかしいね!まだいたんだ!」

「…おぬし、何者じゃ。巫女をしていた者、ではないな?」

「わたしは、わたし。何者とか関係ないよお?あなたは誰?倭文神?それともただの──」

「吾輩の前から消えろ!」


 激昂する寡黙に少女はバケモノめいた笑いをさらにうかべる。

「その自信のなさは変わらないねえ?倭文神さん?」


「黙れ!──神威ある偉大な星!」

 叫んでからハッとする。違和感。懐かしみを覚える──アレは神威ある偉大な星。

「どうしたの?」


 寡黙は印を組む。いきなり眼前にしめ縄が連なり、何も把握できていない山伏式神は「きゃああ!」と悲鳴をあげ、逃亡した。

「へー?また拒絶するんだ?…ま、いいや。あなたの力には敵わないし、帰ろうっと」

「…」

 絶望を宿した双眸をした寡黙を残し、まつろわぬ悪神はいなくなっていった。

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