零落した使わしめ 7
異界にある原生林に似た森は、風に吹かれてザワザワと音を立てる。のっぺりとした暗闇からたくさんの視線がする。
魔たちがこちらを監視している。場違いだと言うように。
巫女式神は消えてしまった童子式神と山犬の場所を、しゃがんで眺めていた。足跡が突如として消え、二匹は見当たらない。
まるでどこかへ瞬間移動してしまったようだ。
──異界にいれば不可能ではないが…。
「どっかのSFみてえに消えちゃった…」
「おい、その毛皮を貸せ」
誰もいない背後から低い声がして、彼女はため息をついた。
「捨てるの?主導権は渡さないぞ」
「バカ言うな。近くの湧き水で清めるんだ」
背後には徐々に人の形が形作られていた。その"謎の人物"は巫女式神に似ている。瓜二つの外見で異なるのは瞳の色だった。
煌めく虹色は不可思議に、闇夜に浮かび上がり周りを照らす。見つめているだけでも気が狂いそうな、奇妙な光。
「ここら辺に清水が湧き出ている。真っ直ぐ進めばあるぜ」
「わかった」巫女式神は釈然としないまま頷くと森の奥に進もうとした。
「なあ、こんなに深い森だったっけ?」
新月の夜のせいか奥は闇に包まれ、底なしだった。異界に出現した森がどのくらいの規模なのか。
把握しないまま迷い込むほど馬鹿では無い。
「真神さまのお導きだ」声の主がニタニタ笑うのを感じて、彼女はムッとする。
しょうがなく進むしかないのだ。
早足に道なき道を歩き、ついてくる瓜二つの人ならざる者を確かめる。彼が何か言うまでは歩いてやろうと、勇んでいると──どこからか僅かながら水の音がした。ハッと耳をすまして、音源に駆け寄ると月を写した小さな泉があった。
「月が写ってる?あれ?新月だろ?」
「改変するカオスに負けない聖なる泉さ。その毛皮を水で洗ってやってくれ」