町の神使 女神の箱庭 4
「この神社は"妙見星守神社"といいます。昔は中規模の宮を持ち、町の人々もお参りに来ていたんですよ。祭神はかつて存在した人物が神格化され、妙見菩薩として祀られているんです」
「へえ〜、ここも大きかったんですね」
「そうです。町の人々の心に人物がいた頃は越久夜町にも多数の社がありました。その内の一つとしてうちも信仰されていたんです…そう!またもう一柱、倭文神が祀られているのですよ」
「倭文神…ですか」
何かひっかかる童子式神に、うさぎは嬉しそうに説明する。
「神社なのに、菩薩なのですか?」
「北極星、北斗七星を神格化した菩薩さまですが、神仏習合で昔は星の神さまが祀られていたそうです」
「はあ」
「星の神さまを鎮めたその人物はこの星守家の始祖なんだそうです。すごくないですか?」
「主さまの祖先…」
「あ、あの、昔にいた悪い神についてしりたいのですが…知りませんか?」
神使は「私は神社が勧請された時からしか越久夜町のことを知らないので…」と困り果てた。
「悪い神さまを探しているなんて、もしかして最近町を騒がしている、テリトリーを壊した者の真似事ですか?ダメですよ。何よりリスクが大きすぎて身を滅ぼしますし、そもそも女神のテリトリーを壊そうなんて無理な話です」
「は、はあ…そうですよね」
「女神と神々が作った箱庭を絶対に壊していけないのです。この町を繭のように包み、外敵から守っているんですよ?破れてしまったら宇宙に放り出されて、無に帰ってしまいます。それに…女神から排除されたら、宇宙を彷徨い個を失ってしまう。祀られた星の神のように、苦しみを与えられるのです」
「え?妙見菩薩の星の神は女神に」
「あ、これは企業秘密でした!忘れてください!」
ウサギがブンブンと手をふり、あせる。
「いやいや!忘れられねえッス!」
「あ、あーえっと私はもう消えかかっている身ですからっ!体力を温存しないと!」
「あっ!チョッ!」
ぴょん、と狛犬に入り込み逃げてしまった。ペチペチと狛犬を叩くも返事はない。
「あ〜!いつもしり切れとんぼッス!」
無反応な状態にガクリと肩を落とすや、童子式神は祠を見た。
星の神、倭文神…かつて存在した者。──ここは、敗者を祀る社。
「もう少しでたどり着けそうなのになあ…」
──お前は星の神に似ている。最初に言ったはずだ。
は…はあ…その星の神って…?
主と廊下で話した会話が脳裏をよぎる。
(あっしは星の神の姿をしている?そういえば…主さまに召喚された時に…)
初めて星守一族の末裔である少年と出会ったのは薄暗い部屋だった。蔵だったろうか?
気がつけば掛け軸の前に少年が佇んでいた。手には古びた手記が握られており、童子式神は自らの手をみた。
「 …」
「君が、お星の神さま?」
「わたくしは式神です」
童子式神はお得意の機械的な笑みを作る。
「式神…?かみさまではないの?だって、君はお星の神さまにそっくりだ」
「主さま、なんなりと命令を」
「主…さま?僕が…?」